超高齢社会の到来やテクノロジーの進化、働き方改革などの影響で日本の医療を取り巻く環境は大きく変化している。これから医学部を目指す学生に向けて、日本医師会の横倉義武会長に医師を目指す上での心構えや受験の思い出などを語ってもらった。
(本インタビューが掲載された日本医事新報特別付録・医学部進学ガイド「医学部への道2021」の全文はこちらから無料でダウンロードできます)
横倉 医学部の人気は私が医学部を受験した1963年の10年後くらいからだんだん高くなっていましたが、バブル崩壊で一気に加速しました。その後も不景気が続き、親御さんが「経済変動に左右されない安定した資格を」ということで、人気が不動のものになったのだと思います。私の高校(福岡県立修猷館高校)で学力がトップ10だった同級生のうち医学部に入学したのは2人でした。あとは工学部や理学部、法学部などさまざまな分野に進んで日本をリードするような学者になったり、経済人、行政官になったりするなど、自分に合った道をしっかりと選んでいましたが、今は成績が良いから医学部を受けてみる、という空気があるように感じてしまいます。
医の倫理綱領にあるように、医師は自分よりも患者さんの利益を優先して考えなくてはいけない職業です。それでも医師になりたい、という強い覚悟を持って医学部に進んでほしいと思います。
医の倫理綱領
医学および医療は、病める人の治療はもとより、人びとの健康の維持もしくは増進を図るもので、医師は責任の重大性を認識し、人類愛を基にすべての人に奉仕するものである。
1. 医師は生涯学習の精神を保ち、つねに医学の知識と技術の習得に努めるとともに、その進歩・発展に尽くす。
2. 医師はこの職業の尊厳と責任を自覚し、教養を深め、人格を高めるように心掛ける。
3. 医師は医療を受ける人びとの人格を尊重し、やさしい心で接するとともに、医療内容についてよく説明し、信頼を得るように努める。
4. 医師は互いに尊敬し、医療関係者と協力して医療に尽くす。
5. 医師は医療の公共性を重んじ、医療を通じて社会の発展に尽くすとともに、法規範の遵守および法秩序の形成に努める。
6. 医師は医業にあたって営利を目的としない。
横倉 医学部を目指す学生に一定以上の学力が求められるのは当然ですが、日本では卒業後ほとんどが臨床医になるわけです。基礎研究に携わり、世界中の研究者との激しい競争に身を置くのであれば話は別ですが、臨床医には「人が好き」という資質も非常に重要です。目の前の患者さんをどう治療・ケアしていくか、労を惜しまず寄り添っていかなくてはいけません。こうした、医師という仕事の本質を理解した上で、優秀な学生が医学部を目指してくれるのであれば大歓迎ですね。