癒着胎盤は,絨毛が子宮筋層に直接付着もしくは侵入し,胎盤の一部またはすべてが子宮壁と強固に癒着し,胎盤が剝離困難な病態である。重症度により楔入胎盤,嵌入胎盤,穿通胎盤に分類される。帝王切開率の増加に伴い,次回妊娠における前置胎盤が増加し,結果的に癒着胎盤が増加している。また,近年増加している体外受精も癒着胎盤の危険因子である。癒着胎盤の定義は幅広く,様々な状態が含まれる。
本稿では,重症例が多い前置胎盤に合併した癒着胎盤について触れたい。
癒着胎盤の危険因子(前置胎盤,帝王切開既往,体外受精など)を十分に知る。それぞれの因子のオッズ比は前置胎盤が約50倍,帝王切開既往は回数に応じて異なるが約5~10倍,体外受精は約5倍前後と報告されている。
帝王切開既往のない前置胎盤では約3%,帝王切開の既往が1回ある前置胎盤では約10%,帝王切開の既往が2回以上ある前置胎盤では約40%で癒着胎盤を合併すると報告されている1)。
妊娠中は,超音波診断法や磁気共鳴画像(MRI)により評価する。しかし,経験を有する検査者であっても正確な診断はしばしば困難である。
分娩後は,胎盤剝離の状態によって臨床的に診断される。最も正確な診断方法は,子宮摘出され組織学的に評価された場合である。子宮内膜症を合併した癒着胎盤は手術手技が難しいため,子宮内膜症の合併の有無も術前に得たい情報である。患者の月経に関連する痛みの問診や,手術既往について情報収集が重要である。また,試験的な報告のみであるが,MRIにおいて“Horizontal Cervix Sign”が陽性であった場合は,子宮背面が子宮内膜症による癒着をきたしていることが多いと筆者らは考えている2)。
大量出血のリスクがあり,癒着胎盤の疑いがある症例や,危険因子を複数有する患者は,高次施設での分娩が望ましい。
否定が困難であるため,危険因子を有する症例では外来での管理,患者への説明,術中管理を含め,慎重な対応が必要である。
前置胎盤を合併している場合,約半数の症例で早産となるため,新生児科医との連携が重要である。
分娩時大量出血に備え,輸血の準備,麻酔科医との緊密な情報共有も重要である。
癒着胎盤による大量出血の可能性を強く疑う場合,術前に血管用バルーンカテーテルの留置などを考慮する。合併症や胎児被ばくの観点から,放射線科医とともに適応を慎重に判断する。
子宮摘出が必要な症例も多く,妊娠子宮摘出の経験を持つ医師の応援を得るなど,十分な体制のもとで行うことが望ましい。膀胱剝離が困難な症例では泌尿器科医の応援が必要である。
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