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胎児発育不全(遅延)[私の治療]

No.5010 (2020年05月02日発行) P.50

田中 守 (慶應義塾大学医学部産婦人科学教室教授)

登録日: 2020-04-29

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  • 胎児発育不全(遅延)は,超音波断層法による胎児推定体重が基準値より大きく下回ることによって診断される。発症原因は,胎児自身の染色体異常,先天異常,感染によるものや,母体側からの血流障害による栄養不足などに起因する場合もある。原因によって対応が異なるが,現時点では有用な治療薬が確立されておらず,適切な管理は適切な時期の分娩ということとなる。

    ▶診断のポイント

    胎児発育不全の診断は,超音波断層法による推定体重が妊娠週数に比してわが国では-1.5SD,海外では10パーセンタイルを下回った場合に診断される。妊娠週数との比較のためには妊娠初期の超音波断層法による予定日の確認が重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    【正確な診断】

    最初に正確な推定体重計測が重要である。胎児推定体重の計測では日本超音波医学会で定めた計測法を使用し,日本人の推定体重曲線と比較して-1.5SD以下であれば胎児発育不全と診断し,原因検索を開始する。

    【原因検索】

    最初に胎児側に発育不全の要因がないかどうか検討する。たとえば,心奇形,消化管閉鎖,口唇裂などの多発奇形が存在した場合には,18トリソミーを筆頭とした胎児染色体異常が疑われる。また,脳室拡大,脳室の石灰化が認められれば,サイトメガロウイルスやトキソプラズマの先天感染症が疑われる。いずれにしても,胎児側に発育不全の要因が認められた場合には,管理が可能な周産期センターへの転院も考慮する。胎児側に要因が認められない場合は,多くの場合,子宮胎盤循環不全による栄養・酸素供給不足による胎児発育不全が多い。

    胎児発育不全の根本的治療法は確立されておらず,現時点では妊娠週数に伴う胎児成熟度と胎児状態の悪化の程度を比較し,基本的には胎児状態は悪化していくことを考慮の上,最適な分娩時期を決定することが最善の治療法となる。中期的な指針としては胎児発育曲線の変化であり,短期的な指針としてはバイオフィジカルな指標となる。

    【バイオフィジカルな指標】

    胎児発育遅延児の超音波ドプラ法による血流計測変化。

    ①子宮動脈血流速度波形の拡張早期切痕の消失遅延

    ②臍帯動脈血流速度波形の拡張期血流の低下から逆流現象の発生(PI,RI,S/D値の上昇:胎盤血管抵抗の上昇および胎児心不全徴候)

    ③中大脳動脈血流速度波形の拡張期血流の上昇(PI,RI,S/D値の低下:brain sparing effectによる脳循環血流増加)

    ④静脈管血流の拡張末期血流減少~逆流現象の発生(胎児心不全徴候)

    ⑤臍帯静脈血流の拍動現象(胎児心不全徴候)

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