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胎児機能不全[私の治療]

No.5012 (2020年05月16日発行) P.44

鮫島 浩 (宮崎大学理事・宮崎大学医学部附属病院長)

登録日: 2020-05-19

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  • 胎児機能不全とは,胎児心拍数モニタリング(FHR)やバイオフィジカルプロファイルスコア(BPS)などの臨床評価法で,正常ではない所見が存在し,胎児の健康状態に問題がある,あるいは将来問題が生ずるかもしれないと判断された場合をいう。
    一般に,胎児健康状態の評価法では,正常結果が得られれば胎児は健康であると言える。すなわち,偽陰性率は1%未満で低い。逆に異常結果が得られた場合でも,本当に健康状態に問題がある症例は少ない(偽陽性率は30~90%と高い)。この背景には,正しく判断し,健康状態を害する前に娩出するよう適切に管理した側面もあるが,これらの評価法の持つ限界でもあると考えられている。胎児評価法の精度と限界を理解し,異常所見が得られた場合には,在胎週数,ハイリスク因子,経時的な変化などを含めて総合評価することが重要である。

    ▶診断のポイント

    【胎児心拍数モニタリング(FHR)】

    妊娠中の評価法に,NST(nonstress test)とCST(contraction stress test)があり,主にハイリスク妊娠に用いられてきた。一方,分娩中には,健康な胎児でも臍帯圧迫や低酸素血症など胎児機能不全に陥る危険性があり,全妊婦を対象に実施されている。

    妊娠中には,禁忌症例のないNSTが汎用されている。一過性頻脈が20分間に2回以上出現する場合をreactiveとし,胎児が健康状態にあると判断する。それ以外をnonreactiveとする。一過性頻脈は,健康な胎児であれば妊娠32~34週以降,ほぼ全例に出現する。

    CSTは子宮収縮というストレスを人工的に誘発し,外部ストレスへの反応性を評価する方法である。10分間に3回の収縮(5回を超すと過強陣痛と判断される)に対して半数以上に遅発一過性徐脈が出現した場合をpositiveとし,胎児機能不全の疑いがあると判断する。出現しない場合をnegativeとし,胎児が健康状態にあると判断する。判断保留(equivocal)の頻度もある程度存在する。

    分娩中のFHRでは,一過性徐脈を,胎児に加わった病因と対応させて評価する方法が用いられている。大別すると,低酸素症・胎盤機能不全(主に遅発一過性徐脈が繰り返す状況),臍帯循環障害(主に変動一過性徐脈),児頭圧迫(早発一過性徐脈,良性と考えられている)である。

    上記の病因(ストレス)が重症であったり,徐々に蓄積したりすると,胎児はアシドーシスに傾き,pH値7.2前後では約半数の症例で一過性頻脈が消失したり,基線細変動が減少したりする。これらの所見を経時的に,総合的に判断する。基線,基線細変動,一過性頻脈,一過性徐脈のすべてが正常であれば胎児は健康であると評価する。一方,基線細変動が消失し,かつ一過性徐脈が頻発する場合を胎児機能不全と判断する。実臨床では,正常と異常との中間群が多く,それらは胎児機能不全の疑いがあると判断し,経時的な評価が重要となる。また,個別化した対策も必要である。

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