妊娠高血圧症候群(旧・妊娠中毒症)は,妊娠中に存在する高血圧を包含した概念である。妊娠前からの高血圧,妊娠初期の胎盤形成不全,妊娠中期以降のインスリン抵抗性などが原因とされ,他臓器の障害や胎児胎盤機能不全を多く合併し,他の産科救急疾患とも密接に関連する。
妊娠前からの高血圧については本態性・腎実質性・腎血管性・内分泌性・血管性の鑑別を行う。妊娠中の発症は,妊婦健診時の血圧測定と尿蛋白検査により把握する。白衣高血圧の疑われる例を中心に家庭血圧の測定も勧められる1)。また,分娩時の高血圧も,これまで言われてきた子癇だけでなく脳出血にもつながる2)ため,近年厳重に管理される方向である。
妊娠中に降圧を行う意義は,脳出血の予防と経母体ステロイド投与による児の肺成熟を待つこと(48時間),および母体搬送が必要な場合のコントロールである。児の成熟を待つべき早産期であれば,妊娠期間の延長が予後をよくする可能性もあるが,胎児発育不全のある場合はぎりぎりの選択となる。妊娠高血圧症候群そのものが改善することはなく,妊娠終結の時期を慎重に探る。
既往歴や家族歴のある例では低用量アスピリンによる予防効果が期待され,妊娠初期のスクリーニングについても実用化が近づいている3)。妊娠前からの高血圧についてはdrug information(DI)上使用できる降圧薬が限られるが,Ca拮抗薬については禁忌のものでも使用されることがある。他方,ACE阻害薬・ARBは第2三半期以降に胎児の無尿から絞扼性形態異常を起こすので禁忌であり,妊娠がわかった段階で変更する。
外来レベルでの降圧を行う場合,第一選択は児への影響の少ないメチルドパである。ここに血圧の原因やコントロールに合わせて追加薬剤を選択する。トランデート®(ラベタロール)は注射薬(日本未承認)が有用ともされているが,わが国では循環器内科と連携して原発性アルドステロン症などに内服薬が奏効する。血圧が重症域に達する場合や臓器障害のある場合は入院での管理が推奨されており,胎児モニタリング下に強い降圧を試みることとなる。
分娩時を含む高血圧緊急症に対しては注射薬で対処する。ニカルジピンの原液を基液ルートの側管から持続静注するのが最も使いやすい。また,直接の降圧作用はないとされるが,子癇予防のための硫酸マグネシウムも重要な薬剤である。
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