【質問者】
下屋浩一郎 川崎医科大学産婦人科学教室1教授
【妊娠前からの介入がさらなる母児の予後向上につながる】
ご指摘のように,出産年齢の高齢化に加え,各疾患の予後向上や生殖補助医療による妊娠率向上に伴い,慢性疾患を有する女性も妊娠・出産を望めるようになっています。
「プレコンセプションケア」は,1980年代から提唱されはじめた概念です。たとえば,糖尿病合併女性において,妊娠前に血糖コントロールが行われた群は,行われていない群に比べて,胎児に先天異常を認める率が有意に少ないことはよく知られています。妊娠が判明してからの医療介入は,短期間であるため限界があります。そこで,病勢を安定させた時期に計画的に妊娠・出産へと導くことにより,母児の予後向上を図るというものです。
もちろん,周産期特有の生理的変化が疾患に及ぼす影響も検討しなくてはなりません。また,妊娠判明後の薬の自己中断や急な変更による疾患の増悪も回避したいところです。妊娠を希望される時期には,投与中の薬について,用量の減量や,妊娠中の使用経験があり胎児への影響が低い薬や単剤への変更を検討し,病勢の安定化をめざします。こうした介入には,妊娠前から産婦人科と関係診療科の連携が必要です。さらに,妊娠前に本人や家族にカウンセリングを行うことにより,妊娠成立後,円滑な管理となった例を経験しています。なおその際には,一方的に提案するのではなく,本人,家族と医療スタッフが双方向性に方針を決定するshared decision makingが重要です。
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