肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は,肺胞腔内に主としてリン脂質,コレステロール,サーファクタントアポプロテインが集積する稀な疾患である。わが国に約3000人の患者がいると推定される。
1/3は無症候性である。進行すると,労作時の息切れを自覚し,さらに進むと安静時息切れ,在宅酸素療法を必要とする。本症の進行により死亡例もある。
肺高分解能CT上,すりガラス様陰影を認め,肺生検で,肺胞内に充満したPAS染色陽性の顆粒状好酸性物質が認められる。気管支肺胞洗浄では白濁した液が得られ,サイトスピン標本のギムザ染色あるいはパパニコロウ染色で,顆粒状の好酸性無構造物質や泡沫状マクロファージが観察される。
病因により,自己免疫性,続発性,遺伝性に大別される。自己免疫性PAPは全体の91%を占め,血清中の抗GM-CSF抗体が陽性である。続発性PAPの多くは血液疾患に続発する。遺伝性PAPはきわめて稀であるが,GM-CSF受容体の異常によるものが知られている。
自己免疫性PAP症例の自然経過は,①自然寛解,②有症状だが安定,③進行悪化,のいずれかをとる。自己免疫性PAPは,適切な治療を行えば比較的予後のよい疾患である。診断がついてからの平均生存期間は16.1年とされる。これに対し,続発性PAPの予後は2年生存率が40%とされ,きわめて予後不良である。一方,遺伝性PAPの予後は,症例数が少ないため不明である。自己免疫性PAPで無症候性の患者は,経過観察していてよい。一般的には進行は緩徐である。続発性PAPの患者は,原病の治療を考える。骨髄移植により寛解した症例の報告がある。
PAPの標準的治療は,全肺洗浄法(whole lung lavage)である。主として,自己免疫性PAPに対して有効である。続発性PAPに対しては無効とされている。遺伝性PAPでは姑息的に行われている。
自己免疫性PAPにおいて,安静臥床動脈血酸素分圧70 mmHg未満であることが,全肺洗浄の適応とされる。線維化を伴う症例においては,低酸素血症の原因が線維化に起因する場合は,全肺洗浄による改善は期待できない。しかし,本症において術前に線維化の程度の正確な評価は困難であることが多い。
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