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常位胎盤早期剥離[私の治療]

No.5055 (2021年03月13日発行) P.40

菊地範彦 (信州大学医学部産科婦人科学教室講師)

登録日: 2021-03-16

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  • 常位胎盤早期剥離(以下,早剥)は,正常位置に付着した胎盤が,胎児娩出前に子宮壁より剥離し,母体には播種性血管内凝固症候群(DIC),出血性ショック,母体死亡を,胎児には胎児機能不全や胎児死亡を起こしうる疾患である。全分娩の0.5~1.3%ほどに発生する。

    ▶診断のポイント

    少しでも早剥を疑う症状や所見がある場合には,「常に念頭に置いて疑い,積極的に検査を行う」ことが重要である。

    【症状】
    〈腹痛,腹部緊満感,腰背部痛〉

    軽度の下腹部痛を認め次第に増悪するものから,突然,激痛で発症するものまで様々である。子宮収縮も軽度の腹部緊満感から子宮筋の過緊張を伴う持続的な子宮収縮となる。重症例では子宮は板状硬となり,著明な圧痛も認める。胎盤が後壁付着の場合には,腰背部痛で発症することもある。

    〈性器出血〉

    約80%の症例に性器出血を認めるが(外出血型),胎盤の位置や剥離部位などにより少量の場合やまったく認めない場合(内出血型)もある。「内出血型」のほうは診断が遅れる場合もありDICの発症が多く,児もより重症になる場合がある。

    〈胎動自覚の変化〉

    胎動減少または胎動消失が初発症状となる場合もある。

    【検査所見】

    早剥の臨床症状や検査所見は様々で,症例によって異なる。

    〈バイタルサイン〉

    既に広範囲の胎盤剥離を認める場合には,母体は出血性ショックになっている可能性がある。ショックバイタルの場合には,全身状態の安定化を図りつつ迅速的に評価診断を行う。

    〈外診・内診〉

    腹部の触診にて子宮筋の過緊張,持続的な子宮収縮,板状硬,著明な圧痛を認める場合には,既に重症化している可能性がある。性器出血は,暗赤色の非凝固性でサラサラした性状のことが多い。出血がなくても腹部症状がある場合には,早剥を疑って診断を進める。

    〈超音波検査〉

    血腫像は時間経過に伴い見え方が変化し,急性期はしばしば胎盤組織と等エコーに観察される。このため,超音波検査での早剥診断の感度は低いことに注意する。高輝度の血腫像や5cmを超える胎盤肥厚を認める場合には,早剥の可能性を考慮する。

    〈血液検査〉

    貧血,血小板減少,アンチトロンビン活性低下,FDPあるいはFDP-DDの上昇,フィブリノゲン値の低下などに注意する。特にフィブリノゲン値低下(150mg/dL以下)を認める場合には,既にDICが進行しており,注意が必要である。

    〈胎児心拍数陣痛図〉

    胎児の低酸素状態を反映し,一過性頻脈の消失,基線細変動の減少・消失,(反復性の)遅発一過性徐脈や変動一過性徐脈などの胎児心拍異常が出現することが多い。特に基線細変動の減少と徐脈は,重症例に有意に高頻度に認められるとの報告がある1)。子宮収縮曲線ではさざ波状収縮,頻収縮,持続的収縮などがみられる。

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