グリコーゲン代謝に 関わる酵素の先天的な欠損により,グリコーゲンが組織に蓄積(0型では欠乏)し,臓器障害などをきたす。欠損酵素の違いにより,0型,Ⅰ~Ⅶ型,Ⅸ~ⅩⅤ型などに分類される。また,障害を受けた酵素の発現部位により,肝型(Ⅰ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅵ,Ⅸ型),筋型(0b,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ~ⅩⅤ型など)に大別されるが,酵素発現の臓器特異性から,肝臓,筋肉以外の他臓器の障害が並存していることもある。遺伝形式はⅨ型の一部を除き常染色体劣性遺伝である。累積発生頻度は,肝型糖原病全体で約2万人に1人,筋型糖原病全体で10万~80万人に1人と推測されている。Ⅸ型が最も多く,Ⅰ型,Ⅲ型がそれにつぐ。
各病型によって,臨床症状や発症時期は異なるが,肝型では一般に肝腫大,低血糖,腹部膨満,低身長,成長障害を認め,血液検査では,肝機能障害,乳酸の上昇,高尿酸血症を認める。筋型では筋症状の特徴から,運動誘発性に筋症状を示すもの(Ⅴ,Ⅶ,Ⅸd型など)と固定性筋症状を示すもの(Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ型など)にわけられる。運動誘発性に共通する症状は運動不耐,運動時有痛性筋痙攣,ミオグロビン尿などで,固定性筋症状に共通する症状は,持続または進行する筋力低下であり,筋症状のみならず,全身症状(肝症状,中枢神経症状,内分泌異常,心筋症状など)を伴う。血液検査では血清CK高値を認める。
Ⅰ型(von Gierke病)では,グルコース-6-リン酸(G6P)からグルコースへの転換ができないため,数時間の絶食で低血糖を生じる。また,著明な肝腫大,人形様顔貌,成長障害,鼻出血を認め,血液検査では脂質異常症,高尿酸血症,高乳酸血症を認める。Ⅰb型では上記に加え,好中球減少も認める。Ⅱ型(Pompe病)は,乳児型は生後早期から筋緊張低下,体重増加不良,心拡大,肝腫大,巨舌を認め,無治療では2歳までに死亡する。遅発型では緩徐進行性のミオパチーを呈する。Ⅲ型(Cori病,Forbes病)のうち,Ⅲa(肝筋型)では低血糖,肝腫大,低身長を認めるが,成人以降に筋力低下,心筋障害が出現することがある。Ⅳ型(Andersen病)では成長障害,肝脾腫を認め,肝硬変が進行し,5~6歳で死亡する。Ⅴ型(McArdle病)では運動時の筋疲労,疼痛,運動後のミオグロビン尿を認めるが,筋症状が出現しても筋運動を続けていると突然症状が軽減するsecond wind現象がみられる。Ⅵ型(Hers病)では,低血糖,肝腫大を認めるが,Ⅰ型より軽症である。Ⅶ型(垂井病)では,溶血を伴い,Ⅴ型と類似した症状を認めるが,second wind現象を認めない。Ⅸ型では肝型,筋型,肝筋型が存在し,肝型はⅥ型の症状に類似し,肝腫大,低血糖を認め,筋型では筋痛,横紋筋融解症を呈する。Ⅸc型では肝硬変を呈することもある。0型では空腹時低血糖,ケトン体上昇を認めるが,肝腫大を認めない。
末梢血白血球もしくは生検肝組織,筋組織を用いて酵素活性低下を証明する。また,遺伝子診断も有用で,日本人好発変異としてⅠa型ではG6PC遺伝子のc.648G>T変異,Ⅰb型ではSLC37A4遺伝子のc.352T>C変異,Ⅴ型でPYGM遺伝子のp.Phe710delが知られている。肝や筋組織にはグリコーゲンの著明な蓄積を認める(0型を除く)。
肝型では,Fernandes負荷試験〔糖負荷,グルカゴン負荷(Ⅰ型が疑われる症例では非推奨),ガラクトース負荷〕が診断の根拠となる。特に空腹時に高乳酸血症を認める症例において,グルコース負荷で乳酸値が低下すればⅠ型が強く疑われる。
筋型では,発作性筋症状出現時には血清CK値は著明に上昇する。ミオグロビン,血清尿酸,BUN,クレアチニンの上昇もみられる。阻血下前腕運動負荷試験または非阻血下前腕運動負荷試験で,乳酸・ピルビン酸が上昇しない。
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