株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

クッシング病[私の治療]

No.5072 (2021年07月10日発行) P.41

沖 隆 (浜松北病院代謝内分泌科)

飯野和美 (磐田市立総合病院糖尿病・内分泌内科部長)

登録日: 2021-07-09

最終更新日: 2021-07-06

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 下垂体に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を過剰産生する腺腫が発生し,結果として副腎皮質からのコルチゾール分泌が過剰となった結果,成人ではグルココルチコイド過剰症状(満月様顔貌,中心性肥満,伸展性赤紫色皮膚線条,皮膚の菲薄化や皮下溢血,近位筋萎縮による筋力低下等の症状)と高血圧,高血糖,骨粗鬆症などを認める。下垂体以外に発生する神経内分泌腫瘍(小細胞癌やカルチノイドなど)による異所性ACTH産生との鑑別が重要となる。

    ▶診断のポイント

    主要徴候を認め,1日尿中遊離コルチゾールが高値,血中ACTH濃度が正~高値,低用量デキサメタゾン抑制試験(わが国では0.5mg)において早朝安静時の血中コルチゾール濃度が5µg/dL以上であれば,ACTH依存性クッシング症候群と診断し,頭部MRIで下垂体に腫瘍を認めればクッシング病を強く示唆する。CRH試験においてACTH上昇反応を示す例が多く,MRIにて下垂体腫瘍を認めなくとも下錐体静脈洞サンプリングによる中枢性ACTH産生を証明すれば,クッシング病と診断する。径1cm未満の微小腺腫例が多い。しかし,稀ではあるが増殖能が強く巨大化するcrook cell adenomaやがん腫の例も報告されている。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    治療の第一選択は,内視鏡あるいは顕微鏡を用いた経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術である。術後1週間以内に血中コルチゾールが測定感度以下に低下すれば,腺腫全摘出の可能性が高い(寛解)。その場合は,ヒドロコルチゾン(HC)を用いたグルココルチコイド補充療法を行いながら,徐々にHCを減量し離脱を図る。

    一方,手術後寛解に至らなかった例では,画像診断において残存腺腫が確認されれば,再手術を考慮する。

    手術療法によって寛解に至らなかった例においては,下垂体腺腫のACTH分泌抑制(向下垂体)あるいは副腎皮質からのコルチゾール産生抑制(向副腎)治療を考慮する。向下垂体治療は向副腎治療に比べて奏効率は低いが,原因に沿った治療となり,著効例も報告されている。向下垂体治療として保険適用となっているものは5型ソマトスタチン受容体に作用する徐放性パシレオチドがある。有効例が多く報告されているが,インクレチン抑制による高血糖の副作用に留意する。保険適用外ではあるが,ドパミン作動薬であるカベルゴリンの有効例も報告されている。

    手術療法や薬物療法に十分な反応がみられない例において主要局在が明確な場合は,放射線の定位脳照射(サイバーナイフ,ガンマナイフ)を依頼する。

    ACTH抑制療法が困難な場合は,向副腎治療への変更あるいは併用を試みる。わが国では,メチラポン,トリロスタン,ミトタンが保険適用となっている。そのうち,即効性で奏効率の高い11β脱水素酵素阻害薬のメチラポンが最も用いられる。3βヒドロキシステロイド脱水素酵素阻害薬のトリロスタンは効果発現が緩徐で奏効率が低い。ミトタンは効果発現に1カ月以上を要する。長期内服で副腎皮質に不可逆的変化をもたらし,生涯のHC補充が必要となるため,「薬物的副腎摘出術」とも言われる。ミトタンによってHCの半減期が短縮するため,併用時はHCの増量を要する場合がある。ろれつ不全など中枢神経系の副作用を認める場合があるため,注意深く観察する。

    メチラポンの使用法として,低用量から開始し徐々に増量する漸増法と,十分にコルチゾール産生が抑制される用量を初期から開始するとともに生理量のHC量を補充するblock and replace法がある。筆者は後者を頻用している。

    向副腎治療は下垂体腺腫に対して直接的効果はなく,むしろ腫瘍増大(Nelson症候群)の可能性を含むため,画像診断による注意深い経過観察が必要である。副作用などで向副腎治療が困難な例では,両側副腎摘出術を行い,生涯のHC補充を行う。その際も,Nelson症候群の発症について,注意深い経過観察が必要である。

    残り718文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top