高齢者高血圧の降圧目標については、各国ガイドライン間にも不一致が見られる。確固たるエビデンスがないためだ。そこに一石を投じたのが、中国で実施された大規模ランダム化試験(RCT)“STEP”である。60歳以上であっても、「収縮期血圧(SBP)130mmHg未満」を目標とした降圧治療で心血管系(CV)イベント抑制作用が認められたという。Jun Cai氏(中国医学科学院)が報告した。
STEP試験の対象は、60~80歳の、脳卒中既往を認めない高血圧(スクリーニング時SBP:140~190mmHg、または降圧薬服用)の中国人8511例である(スクリーニングを受けた88.4%が参加)。
平均年齢は66歳で、全体の76%が70歳未満だった。全体のSBP平均値は146mmHgだが、33.6%が「SBP≦138mmHg」である。またCV疾患合併例は6.3%、eGFR<60mL/分/1.73m2例も2.3%だった。
これら8511例は、診察室測定SBP目標値を「130mmHg未満(110mmHg以上)」に設置した「積極」降圧群と、「150mmHg未満(130mmHg以上)」とする「標準」降圧群にランダム化され、非盲検下で3.34年間(中央値)観察された。用いられた降圧薬は、ARBとCa拮抗薬、利尿薬である。
その結果、診察室SBP平均値は、「積極」群で126.7mmHgまで低下し、「標準」群(135.9mmHg)に比べ、一貫して低値が維持されていた。これらの血圧達成に要した降圧薬の数は、「積極」群:1.9剤、「標準」群:1.5剤である。 なお、通常診察室SBPに換算すると「積極」群:128mmHg、「標準」群:139mmHgまで降圧したと推算されるSPRINT試験(開始時SBP平均:140mmHg)では、それぞれ平均2.7、1.8剤を要した。
CV転帰だが、1次評価項目である「脳卒中・心筋梗塞・不安定狭心症による入院・冠動脈血行再建術・急性非代償性心不全・心房細動・CV死亡」の発生率は、「積極」群で3.5%、「標準」群は4.5%となり、「積極」群におけるHRは0.74(95%CI:0.60-0.92)の有意低値となった。個別のイベントを見ると、「脳卒中」と「心筋梗塞・不安定狭心症による入院」、「急性非代償性心不全」で、有意なリスク減少が認められた。 また「積極」群における、これら1次評価項目の減少作用は、「試験開始時SBPの高低」(三分位:138未満、139-151、152以上)、あるいは「糖尿病合併の有無」に影響を受けていなかった。
なお、「積極」群における「CV死亡」HRは0.72(0.39-1.32)[0.4 vs. 0.6%]と減少傾向を示した一方、「総死亡」HRは1.11(0.78-1.56)[1.6 vs. 1.5%]だった。
有害事象は、低血圧が「積極」群で3.4%と「標準」群(2.6%)に比べ有意に多かったものの、「失神」と「めまい」に有意差はなかった。なお「急性腎傷害」、「起立性低血圧」については言及がなかった。
ディスカッションにおいて指摘されたのは、①本試験参加例は、実臨床の高齢者よりもSBPは低く、心腎合併症を有する例も少ない、②開始時SBPが低い例が含まれているため、「標準」群にランダム化された場合、血圧が上昇した可能性がある、③「認知機能」に対するデータが不明、④拡張期血圧と転帰の関係が不明―などである。全般として、本試験結果の高齢者全般への適合性については慎重な姿勢がうかがわれた。
本試験は、中国医学科学院と北京卓越青年科学家プログラム、中国国家自然科学基金から資金提供を受けた。また報告と同時に、NEJM誌ウェブサイトにて公開された。