肺に発生する腫瘍は,ほとんどが原発性肺癌や転移性肺腫瘍などの悪性腫瘍であり,良性腫瘍は数%程度と言われている。肺の良性腫瘍の組織型としては,乳頭腫,腺腫,唾液腺型腺腫などの上皮系腫瘍,軟骨腫,平滑筋腫などの間葉系腫瘍など,その他様々であるが,頻度として過誤腫と硬化性血管腫の2つで約70%を占める。
過誤腫は軟骨成分を主体として,脂肪,平滑筋などの間葉系組織が様々な割合で混在した良性腫瘍である。好発年齢は50歳代で男性に多く,肺内のみならず気管支内腔に発生することがある。硬化性血管腫は,病理学的に主に上皮様細胞と血管由来の細胞から構成されていることから血管腫と考えられていたが,近年,いずれの細胞も免疫組織学的にTTF-1(thyroid transcription factor-1)陽性であり,肺上皮由来の腫瘍であると考えられている。好発年齢は40歳代でほとんどが女性であり,人種別ではアジア人に多いと言われている。
基本的には無症状であるため,検診や他疾患で通院中に偶発的に胸部X線もしくは胸部CTで孤立性の結節影として発見されることが多い。腫瘍である以上,確定診断には病理組織学的な評価が前提となるが,画像診断に頼るところも多い。胸部画像上,過誤腫の場合,境界明瞭で辺縁が平滑な円形結節を呈し,孤発性のことが多い。また結節影内部に,特徴的なポップコーン様の石灰化像を認めることがある。硬化性血管腫の場合も,胸部CTでは境界明瞭な辺縁平滑な結節影としてみられる。時に分葉状を示したり,石灰化を呈する。血行に富むため造影効果が高い。腫瘍内部に出血がしばしば起こりMRIで鑑別可能である。
病理学的に確定診断が得られれば,特に治療は必要なく経過観察でよい。
胸部CTで偶発的に見つかった結節影の場合,孤発性で境界明瞭,辺縁平滑,内部石灰化などの肺の良性腫瘍に特徴的な所見を認めたとしても,原発性肺癌や転移性肺腫瘍の可能性を考えておく必要がある。また,腫瘍性病変のみでなく抗酸菌症やサルコイドーシスなどの肉芽腫,リンパ増殖性疾患や肺内リンパ節などの非腫瘍性病変も結節影を呈する病態として鑑別に挙がる。原発性肺癌の場合,細気管支肺胞上皮癌を除き,腫瘍倍加時間は300日以内であるのに対して,肺の良性腫瘍の場合,500日以上と長いため,良性腫瘍を強く疑っていても,胸部CTの再検は1~3カ月以内に行うようにする。特に喫煙歴がある場合には,肺末梢発生の小細胞肺癌やカルチノイドも否定しえないため,1カ月後のCT再検を勧める。陰影の大きさや形状に変化がなければ,その後は6~12カ月後の再検とするのが妥当と考える。
陰影に変化があった場合には,積極的に経気管支肺生検や外科的切除を行う。経気管支肺生検で有意な病理学的所見が得られなければ外科的生検を勧める。過誤腫や硬化性血管腫は肺末梢に発生することが多いため,胸腔鏡下部分切除,楔状切除で完全切除可能である。過誤腫は数%の頻度で気管支内腔に発生し,咳,呼吸困難などの呼吸器症状を呈したり,気道狭窄や閉塞性肺炎の原因となる。その場合,外科的に肺区域切除や肺葉切除を行うが,軟性気管支鏡下で高周波スネアにて切除したり,硬性気管支鏡下で切除可能なこともある。
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