縦隔とは左右の肺に挟まれた領域で,壁側胸膜に覆われており,縦隔腫瘍はそこに発生する腫瘍の総称である。発生する臓器に応じて多くの組織型が認められる。比較的稀で,半数は無症状であり,検診などで発見されることが多い。
外科的摘出が主な治療となる胸腺上皮腫瘍,囊胞性疾患,神経原性腫瘍,甲状腺腫瘍,化学療法が優先される胚細胞腫瘍や悪性リンパ腫などが含まれる。わが国においては,胸腺上皮腫瘍が最も多く,囊胞性疾患,神経原性腫瘍,胚細胞腫瘍が続く。
縦隔腫瘍の診断には,部位別に好発する疾患を理解しておくことが重要である。すなわち,上縦隔(胸骨角と第5胸椎上縁より上部)では甲状腺腫瘍が,前縦隔(心血管の腹側で上部の大血管の腹側と下部の心横隔膜角が主な部位)では,胸腺上皮腫瘍や胚細胞腫瘍などが好発する。中縦隔(下行大動脈以外の大血管,心臓,気管,気管支を含み心前面から食道より腹側の部分)では,悪性リンパ腫や気管支原性囊腫が,後縦隔(食道を含んでこれより背側の部分)では,神経原性腫瘍などが好発する。
生検での診断が困難なことがあり,縦隔腫瘍の診断を進める際には,胸部X線画像,胸部造影CT,胸部MRI,FDG-PETなどを組み合わせた画像診断が重要である。経過,画像,腫瘍マーカーを参考に胸腺上皮腫瘍が疑われ,切除可能ならば,経皮肺生検は行わずに,診断と治療を兼ねた手術を検討する。
胸腺上皮腫瘍の病期分類に関しては,わが国では正岡分類を用いることが多い。胸腺上皮腫瘍の大部分は,胸腺腫であるが,腫瘍細胞の形態とリンパ球の増多によりA,B,Cに分類される。Cタイプは胸腺癌として扱われ,臨床的には肺癌に近い病態で,組織型は扁平上皮癌が多い。胸腺腫では,重症筋無力症や赤芽球癆などの腫瘍随伴症候群を認めることがあり,注意が必要である。
胚細胞腫瘍は若年男性に多く,セミノーマと非セミノーマにわかれる。非セミノーマにもいくつかの組織型があるが,成熟奇形腫以外は悪性度が高く,その際に腫瘍マーカー(AFP,HCG-β)の上昇は診断上有用である。
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