胸膜腫瘍には,良性と悪性がある。良性胸膜腫瘍は線維性腫瘍などがあるが稀であり,増大し他臓器を圧排する場合は外科的切除を検討する。悪性胸膜腫瘍は,胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma:MPM)と肺癌の胸膜転移がある。肺癌の胸膜転移の治療は肺癌に準じるため,本稿ではMPMの治療に関して述べる。MPMは,アスベスト曝露から20~25年程度で発症する。壁側胸膜の中皮細胞から,がんが発生し胸膜に沿って進展,多くの場合胸水が貯留する。
組織学的診断が必須である。胸水貯留例には胸水細胞診の提出が試みられるが,診断に至らない場合も多い。原発性肺癌との鑑別や,組織型によって治療方針が異なるため,胸腔鏡などを用いて積極的に組織学的な診断を実施する。組織型は上皮型,肉腫型,二相型に分類することが多い。
臨床病期I~Ⅲ期で耐術能がある場合には,根治を目標とした集学的治療(外科的切除+放射線治療+術前もしくは術後の化学療法)を実施する。外科的切除は胸膜肺全摘術もしくは胸膜切除/肺剝皮術を検討する。
切除不能なMPMに対しては,全身状態(performance status:PS)が良好であれば化学療法を考慮する。PS 0~2の切除不能MPMを対象とした複数の臨床試験の結果から,一次治療としては長くシスプラチン(CDDP)+ペメトレキセド(PEM)が推奨されてきた2)。
2021年にPS 0~1の切除不能MPMを対象とした,ニボルマブ(Nivo)+イピリムマブ(Ipi)併用療法とプラチナ製剤+PEM併用療法を比較する第3相臨床試験3)(CheckMate743試験)が行われた。主要評価項目である全生存期間は,Nivo+Ipi併用療法でプラチナ製剤+PEM併用療法に比べ延長効果が認められた(18.1カ月vs. 14.1カ月,HR 0.74,P=0.002)。2年生存率でもNivo+Ipi併用療法で41%に対し,プラチナ製剤+PEM併用療法で27%であった。Nivo+Ipi併用療法の安全性はプラチナ製剤+PEM併用療法とほぼ同等であったことから,ガイドライン1)でもNivo+Ipi併用療法を行うよう強く推奨されている。
しかしながら,組織型によるサブグループ解析では,上皮型においてHR 0.86(95%CI;0.69~1.08),非上皮型においてHR 0.46(95%CI;0.31~0.68)と違いを認めており,特に上皮型では一次治療としてNivo+Ipi併用療法とCDDP+PEM併用療法のどちらを一次治療として用いるかは患者背景を考慮し決定する。なお,PEMを投与する場合は毒性軽減のため,投与の7日前から葉酸1g/日内服,ビタミンB12 1mgの筋肉注射を9週間ごとに実施する。
二次治療としては,一次治療でNivo+Ipi併用療法を選択した場合はPEMを中心としたレジメンを,CDDP+PEM併用療法を選択した場合はNivo単剤の投与を検討する。
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