胞状奇胎は,わが国では妊娠1000当たり1~2の発生頻度であり,全胞状奇胎と部分胞状奇胎に分類される。全胞状奇胎の10~20%は侵入奇胎や臨床的侵入奇胎を発症し,2~3%はがん化する。一方,部分胞状奇胎からの続発症は稀である。全胞状奇胎は全遺伝子が雄核発生であるが,部分胞状奇胎は2精子受精による3倍体を主とする。
胞状奇胎では,無月経,不正性器出血,悪阻など正常妊娠初期や切迫流産と同様の症状を示す。妊娠週数が進んだ症例では,稀に高血圧・浮腫・蛋白尿など妊娠高血圧症候群様の症状を呈することがある。
全胞状奇胎では血中ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が10万mIU/mL以上と異常高値を示すことが多い。しかし,部分胞状奇胎や妊娠週数の早い全胞状奇胎では必ずしも高値でなく,通常の流産として見過ごされる可能性がある。
超音波検査の進歩で妊娠早期に胞状奇胎の診断がなされるようなり,全胞状奇胎と部分胞状奇胎の鑑別が難しい症例が増加している。そこで,最近では,全胞状奇胎と部分胞状奇胎の2つではなく,全胞状奇胎・早期全胞状奇胎・部分胞状奇胎の3つにわけて診断することが多い。
胞状奇胎の診断は病理組織学的所見に基づく。全胞状奇胎では大部分の絨毛が水腫状に腫大し,広範囲に栄養膜細胞の異常増殖を認め,異型性を伴う。一方,部分奇胎は正常と水腫状の2種類の絨毛からなり,栄養膜細胞増殖は全胞状奇胎に比べ局所的で軽度である。また,早期全胞状奇胎では,栄養膜細胞の異常増殖は目立つが水腫化絨毛は一部にとどまるため,水腫化絨毛の割合は早期全胞状奇胎と部分奇胎との鑑別には有用とはいえない。このような場合,雄核発生である全胞状奇胎はp57Kip2陰性を示し,両親由来の部分奇胎や流産ではp57Kip2陽性を示すため,p57Kip2免疫染色法による補助診断が全胞状奇胎と部分胞状奇胎や流産との鑑別に有用である。
胞状奇胎の治療は,体内に遺残すると絨毛癌化する危険性のある奇胎絨毛の除去である。
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