尿路不定愁訴は,原因がはっきりしない下腹部・会陰部・外性器に認める違和感や不快感のことを言うことが多い。時に,痛み・重い感じ・濡れているような感じ・しみる感じと表現は様々である。無論,尿検査・尿培養・尿細胞診・超音波検査などでいわゆる器質的疾患が除外された前提があってのことである。
実臨床では珍しくない頻度で診察の機会がある。しかし,自覚症状のみで原因の特定・除去が困難なので,対応に苦慮することが多い。男性では慢性前立腺炎,女性では慢性膀胱炎として取り扱われることがある。また,尿路不定愁訴は,過活動膀胱・前立腺肥大症・神経因性膀胱などとオーバーラップして対応されているのが現状である。
一般に,抗生剤,α遮断薬,セルニルトンなどの西洋薬で対応される場合があるが,漢方薬にも一定の有用性があると考えている。
尿路不定愁訴に対して清心蓮子飲,加味逍遙散,当帰芍薬散,八味地黄丸,牛車腎気丸などが投与されることがある。
今回の症例では前立腺肥大症などの基礎疾患がなかったので猪苓湯を選択した。猪苓湯には消炎作用があるとされ,基礎研究でも膀胱の炎症(過剰な血流増加)を緩和する1)。
漢方での炎症はWBCの上昇・炎症細胞浸潤などを前提としない。基本的には症状と理学所見で判断される。ローマ時代のケルススの4徴候(発赤・熱感・腫脹・疼痛)や,それに機能障害を加えたガノレスの5徴候に近い判断での炎症である。
本症例では,検査での炎症はないが,疼痛や不快感を炎症と捉えて猪苓湯を処方した。処方の際は,運動不足やストレスなどにより症状が増悪することがあるので,生活指導も併せて行うべきである。