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周産期(産褥性)心筋症[私の治療]

No.5110 (2022年04月02日発行) P.38

神谷千津子 (国立循環器病研究センター産婦人科部医長)

登録日: 2022-03-31

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  • 周産期心筋症は,心筋疾患の既往がない妊産婦が妊娠後半~産後に,原因不明の左室収縮能低下をきたす二次性心筋症のひとつである。心拡大とびまん性左室収縮能低下を特徴とし,拡張型心筋症と心臓形態は似ているが,多くの患者が1年以内に心機能が正常範囲に回復するなど,臨床像は異なる。一方,重症例では母体死亡に至るため,早期診断が重要である。

    ▶診断のポイント

    息切れや浮腫などの心不全症状は,健常妊産婦も訴える症状と類似しており,疾患認知度や頻度の低さと併せ,診断遅延や重症化の要因となっている。高齢妊娠,妊娠高血圧症候群,多胎妊娠やβ刺激薬による切迫早産治療が危険因子である。危険因子を持つ妊産婦が,息切れ,浮腫などを強く訴える際に,周産期心筋症を鑑別診断に挙げ,必要な検査を行う。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    これまで,一般的な心不全治療が行われてきたが,近年,モデル動物基礎研究の成果を受け,乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンを抑制する薬剤〔パーロデル(ブロモクリプチンメシル酸塩)〕による疾患特異的治療の試みが,重症例に対して始まっている。これを受け,欧州心臓病学会からは周産期心筋症の急性期治療として「BOARD concept」,すなわち,Bromocriptine(ブロモクリプチン),Oral heart failure therapies(経口心不全治療薬),Anticoagulation(抗凝固薬),vasoRelaxing agents(血管拡張薬),Diuretics(利尿薬)の使用が推奨されている。

    一方,ブロモクリプチンメシル酸塩は,血管攣縮や血圧上昇の副作用があり,米国では産婦への使用が禁止されている。わが国においても,「妊娠高血圧症候群の患者,産褥期高血圧の患者では,産褥期における痙攣,脳血管障害,心臓発作,高血圧が発現するリスクが高い」ため,添付文書上使用禁忌とされている。抗プロラクチン療法の適応症例の見きわめが,今後の重要な課題である。

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