日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が設置され,2016年に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が発表された。その後,2017年に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』,2018年と2021年に一般医向けの『高齢者糖尿病治療ガイド』が発刊された。
この間,高齢者糖尿病の治療は着実に変わりつつある。血糖コントロールに関しては重症低血糖の弊害から高齢者では“lower the better”よりも,“低血糖を避けつつ安全な治療をめざす”という考え方が浸透してきているように思われる。また,高齢者糖尿病においては合併症だけでなく,認知症・フレイルなどの老年症候群の悪化を防ぐことも重要であると認識されている。さらに,高齢者におけるSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の心血管疾患に対する好影響も明らかになりつつあり,それらを高齢者に安全に使用できれば,大きな利益がもたらされることも期待される。
本稿では上記の高齢者糖尿病治療の進歩に加えて,生活機能を考慮した高齢者糖尿病の治療についても述べてみたい。