病歴が複雑な方や難病の方は,漢方所見が複数認められることは多々あります。そこで困るのは,どの所見を採用して診断を組むかです。つまり,所見のうち本当に治さないといけない状態である主証と,枝葉のような症状である客証をどう見分けるかの問題です。その観点から,日頃工夫していることがありましたら,ご教示頂ければと思います。
臨床に熟達している東海大学・新井 信先生にご回答をお願いします。
【質問者】
並木隆雄 千葉大学医学部附属病院和漢診療科 科長・診療教授/ 千葉大学大学院医学研究院和漢診療学准教授
【漢方における本質的病態の変調に着目し,その関連症状を主証とみなす】
主証とはほとんど変動がなく常に現れている症状のこと,客証とは一時的に出たり消えたりする症状のことを言います。両者は臨床で明確に区別できそうですが,実際には主訴が複数であったり,不定期にしか現れなかったり,あるいは主訴の治療が困難と判断されたりする場合,何を主証ととらえてアプローチして良いのか迷うことがあります。時には主訴以外の些細な自他覚症状の中に治療上重要な主証が隠れていることもあります。
そこで,そのような複雑な症状を呈する症例では,意識的に気血水,六病位,五臓など,漢方における本質的な病態の変調に着目し,それに関連する症状を主証とみなして治療します。実際には,陰陽,虚実,寒熱などの概念を組み合わせ,主訴を含めたなるべく多くの症候をカバーできる処方を候補に考えます。病態が複雑であるほど,選択する処方はその中心的なもの,たとえば気虚には補中益気湯,気滞には半夏厚朴湯,瘀血には桂枝茯苓丸,水滞には五苓散,脾虚には六君子湯,腎虚には八味地黄丸などが奏効することが多いと思われます。
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