株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

特集:「緩やかな糖質制限」のギモンに答える

No.5123 (2022年07月02日発行) P.18

山田 悟 (北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長)

登録日: 2022-07-01

最終更新日: 2022-06-29

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

1994年慶應義塾大学医学部卒業。東京都済生会中央病院,慶應義塾大学病院などを経て現職。日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医・研修指導医,日本内科学会総合内科専門医など。

1 緩やかな糖質制限とは何か?
・世界的に糖尿病や肥満症の治療法として糖質制限食が推奨されている。
・世界的には1日50g以下の糖質制限を極端な糖質制限食とし,1日130g以下の糖質制限を緩やかな糖質制限食とすることが多い。
・わが国では,緩やかな糖質制限食・ロカボが普及しつつある。
・ロカボでは,1食20g以上40g以下の糖質量で1日3食を食べ,加えて1日に糖質10g以下で嗜好品を摂取する。

2 糖尿病食事療法の歴史的変遷
・糖質制限食は1921年のインスリン発見以前からの100年を超える糖尿病治療食である。
・エネルギー制限食は糖尿病治療食として受容されていたが,米国では長期治療成績のエビデンスの欠如から1994年に採用されなくなった。
・わが国では今も糖尿病治療食としてエネルギー制限食が採用されているが,エキスパートオピニオンにすぎず,いずれ科学的根拠に基づいて採用されなくなるであろう。

3 緩やかな糖質制限に対するよくあるギモン
(1)糖質制限食はどんな疾病に有効なのか?
・糖質制限食は糖尿病,肥満症,脂質異常症(高TG血症)に対して有効であり,高血圧症,メタボリックシンドローム,非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)に有効である可能性がある。
(2)ケトン体は危険ではないのか?
・かつてケトン体は危険視されていたが,ケトン体代謝機構が働いている環境では危険なものではなく,逆に臓器保護効果が期待できる物質である。
(3)エネルギー制限をしなければ肥満が助長されるのではないか?
・食事を正確に記録してエネルギー摂取量を計算しても,実際のエネルギー摂取量の把握にはつながらない。
・糖質制限では満腹感によってエネルギー摂取量を制限し,肥満者のみ体重を減量させる。

(4)脂質制限をしなければ動脈硬化症が増えるのではないか?
・脂質制限は必ずしも脂質異常症の改善法ではない。
・脂質制限は動脈硬化症の予防法としての根拠がない。
・脂質制限介入によってかえって動脈硬化症を増加させたという報告もある。

(5)蛋白質制限をしなければ腎機能が悪化するのではないか?
・蛋白質制限には腎機能保護効果としての根拠がない。
・蛋白質摂取による糸球体過剰濾過(hyperfiltration;HF)にも基礎医学的データが不足している。

4 緩やかな糖質制限の指導法
・肉や魚については基本的にどれだけ食べてもよい(重量は気にする必要がなく,糖質量はほぼ0である)。
・野菜は彩りよく好き嫌いなく満遍なくおなかいっぱい食べる(少なくとも1食120gまでなら間違いなく糖質20g以内に収まる)。
・主食は糖質20gで収まるように量を調整する。
・低血糖予防のために薬剤を調整する。

5 “賢い不摂生”の提案
・主食も嗜好品もロカボマークを参考に商品を購入すると重量の制限を感じずに糖質量を管理できる。
・不摂生こそ人生の醍醐味であり,不摂生を患者に享受させてこそ真の医療である。

プレミアム会員向けコンテンツです(最新の記事のみ無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top