分娩後異常出血とは,胎盤娩出後から産後12週までの異常出血を指す。出血の発生する時期により想定される病態が異なり,胎盤娩出直後は弛緩出血や分娩損傷,1週間以内では胎盤遺残や子宮復古不全,それ以降の場合はretained products of conception(RPOC)を疑い,対応する必要がある。
出血を認めた時期により出血原因を考慮する。出血量のカウントは過少評価されやすいため,全身状態の変化には常に注意を払い,全身管理を行いながら出血源の検索や止血操作を行う必要がある。
産後の異常出血の原因として4T〔tone(70%:子宮収縮不良),trauma(20%:腟壁・頸管裂傷,子宮内反症,子宮破裂,血腫形成),tissue(10%:胎盤・卵膜遺残,癒着胎盤),thrombin(1%:凝固障害)〕が挙げられる。頻度から考え,異常出血を認めた場合は弛緩出血を念頭に対応を始め,全身状態を常に意識しながらその他の原因検索を行う。ルートは複数本確保し,生理食塩水またはリンゲル液による十分な輸液を行いながら,子宮収縮薬を投与する。トラネキサム酸の併用も考慮する。
正確な出血量をカウントすることは産後では困難なため,SI値(ショックインデックス:脈拍数/収縮期血圧)を用いる。SI値が1以上になる場合は約1.5Lの出血が想定されるため,高次医療機関への搬送,輸血の準備を考慮する必要がある。子宮内バルーンを留置し,それでも止血が得られない場合は子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization:UAE)が必要となる可能性がある。産道の損傷部位からの出血の場合もinterventional radiology(IVR)が有効な場合が多く,外科的止血術にこだわらず高次医療機関への搬送を考慮する必要がある。
分娩後には子宮平滑筋が持続的に収縮することにより胎盤や出血塊が排出されるが,何らかの原因でこの収縮,排出が障害された状態は子宮復古不全と呼ばれる。産褥期の悪露として想定外に出血や出血塊を認めた場合は,子宮復古不全が考えられる。対応としては子宮収縮を促すことと器械的に子宮内容物を排出させることである。
RPOCは流産または児娩出後の子宮内妊娠組織遺残物の総称であり,カラードプラー超音波検査において,子宮内に豊富な血流を認める腫瘤として認知される。この豊富な血流から出血をきたした場合は大量出血になる場合があり,迂闊に子宮内容物除去術やtranscervical resection(TCR)を施行して大量出血となり,UAEが必要となるような場合が認められる。そのため,カラードプラー超音波検査でRPOCが認められても,出血が少量の場合は待機的にみていくことが推奨されている。出血が大量となることが予想される場合,あるいは既に相当量の出血を認めている場合は,子宮内バルーン留置やUAEが選択されることが多い。それでも止血が得られない場合は子宮全摘も考慮される。
残り790文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する