妊娠37週以降の正期産に到達する前に,性器出血や子宮口開大を伴う規則的な子宮収縮を認め分娩に至る可能性がある場合,切迫早産(妊娠22~36週)あるいは切迫流産(妊娠22週未満)と診断する。診断されてからの医療介入には限界もあり,早産あるいは流産という転帰をたどるケースも多い。問題点として,一度,流早産を経験した場合,次回の妊娠においても流早産を反復しやすい(約3割)という特徴がある。
切迫流産・切迫早産の根本的な原因を検索することが最も重要である。しかしながら,これらの原因は多岐にわたるため,原因を特定できないことも多い。特筆すべき点として,発症時期が早いほど,子宮内感染や高度の子宮内炎症を伴いやすいという臨床的な特徴がある。
子宮内感染が原因となっているケースでは,母体発熱,白血球数,CRP値,母体頻脈,圧痛を伴う子宮,悪臭を伴う帯下の有無につきチェックし,臨床的絨毛膜羊膜炎(≒子宮内感染)の有無を判断する。臨床的絨毛膜羊膜炎と診断した際には,原則,児の娩出を考慮すべきだが,おおよそ妊娠26週までの児の未熟性が強い場合には,抗菌薬を投与しながら経過観察という選択肢もある。また,胎児頻脈(>160bpm),すなわち,胎児感染の可能性につき評価する。最も重要な鑑別疾患として,常位胎盤早期剝離(新生児死亡,重症新生児仮死,母体DICなどのリスクが高い)がある。このような胎児感染や常位胎盤早期剝離の症例では,直ちに娩出する必要があるため,子宮収縮抑制薬の投与は避けなければならない。
一方で,切迫流産・切迫早産の過大な診断は,過剰な治療をまねく恐れがあり,注意したい。
切迫流産・切迫早産は,胎児が子宮内で快適に過ごす環境が損なわれた結果,症状が出現しているとも考えられる。子宮内環境(子宮内炎症,および病原微生物の存在)を評価することはなかなか難しいが,高度な子宮内炎症は,胎児炎症反応症候群(脳室周囲白質軟化症,慢性肺疾患,壊死性腸炎など)のリスクを高めることが知られている。さらには,子宮内病原微生物の存在は,胎児死亡,新生児敗血症・髄膜炎のリスクを上昇させる。すなわち,これらのリスクを念頭に置いた治療が必要である。わが国では,子宮収縮抑制薬の長期点滴治療が行われているが,かえって予後を不良とする可能性があることには十分注意が必要である。
我々の施設では,妊娠30週未満の切迫早産例に対して羊水検査を行い(保険未収載),子宮内病原微生物と子宮内炎症を評価した病態別治療戦略を行うことで約3~4週間の延長効果を認めている1)2)。
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