夜間血圧非低下(non-dipping)は、心血管系(CV)イベントの大きなリスクと認識されている。そのため就寝前の降圧薬服用は夜間血圧を低下させると考えられるため、起床後服用に比べより大きなCVイベント抑制作用が期待されてきた。
そして事実、高血圧1万9084例を登録したランダム化比較試験(RCT)"Hygia Chronotherapy Trial"では、就寝前服用により、起床後服用よりも、CVイベント抑制作用は有意に大きかった[Hermida RC, et al. 2020.]。
しかし同試験には、方法論上の問題点などが指摘されている。そこでより大規模な"TIME" が実施されたのだが、降圧薬就寝前服用の優越性は認められなかった。バルセロナ(スペイン)で開催された欧州心臓病学会(ESC)において26日、Tom MacDonald氏(ダンディー大学、英国)が報告した。
TIME試験の対象は、英国公的医療機関で、すでに1日1回型降圧薬を処方されていた、高血圧患者2万1104例である。ウェブサイトで患者自身に参加を呼びかけた。この方法により健康意識の比較的高い患者が集まった可能性をMacDonald氏は指摘している。
平均年齢は65.1歳、男性が57.5%を占めた。13.0%にCV疾患既往を認め、試験開始時の家庭血圧は135/79mmHgだった。なお、上記Hygia試験でも、試験開始時の覚醒時の自由行動下血圧平均値は136/81mmHgだった(診療所血圧は149/86mmHg)。
これら2万1104例は、現在処方されている降圧薬を維持したまま、「就寝前服薬」(20時以降)群(1万503例)と「起床後服薬」(6~10時)群(1万601例)にランダム化され、非盲検下で5.2年間(中央値、最長は9.3年間)観察された。
その結果、1次評価項目である「心筋梗塞・脳卒中・血管系死亡」の発生率は、「就寝前服薬」群:3.4%(年間0.69%)、「起床後服薬」群:3.7%(同0.72%)で有意差を認めなかった(ハザード比:0.95、95%信頼区間:0.83-1.10)。 また、1次評価項目イベントを個別に比較しても有意差はなく、「総死亡」、「心不全入院」のリスクにも有意差はなかった。
さらに、年齢、性別、BMI、CV疾患既往の有無などで分けたサブグループ解析でも、「就寝前服薬」が有用な集団は見つからなかった。MacDonald氏は、夜間non-dipperが多いとされる糖尿病合併例[de la Sierra A, et al. 2009.](13.8%)でも有意差とならなかった点に、落胆を隠さなかった。
一方、有害事象は、若干だが、「就寝前服薬」群で「転倒」が少ない傾向を認めた(21.1 vs. 22.2%、P=0.05)。ただし骨折発生率には、両群間でまったく差がなかった。
降圧薬の「就寝前服薬」でCVイベントが減らなかった原因をMacDonald氏は「大きな謎」としたが、指定討論者であるRhian Touyz氏(グラスゴー大学、英国)は、就寝前降圧薬服用による早朝低血圧リスク増加の可能性を指摘していた[出典非提示]。
さて、先述のHygia試験では「夜服薬」群で「朝服薬」群に比べ、「就寝時血圧」が有意に低値となっていたが(114.7/64.5 vs. 118.0/66.1mmHg)、本試験では不明である。ちなみに、RCT"HARMONY"では、降圧薬を就寝前に服用しても、夜間血圧は低下しなかった[Poulter NR, et al. 2018.]。
なお、米国心臓協会発行のHypertension誌には昨年[Turgeon RD, et al. 2021.]、また欧州高血圧学会発行のJ Hypertens誌も一昨年[Michel B, et al. 2020.]、降圧薬就寝前服用はCVイベント抑制作用を増強しないとする論説を掲載している(前述Hygia試験批判にも言及)。
本試験は、British Heart Foundationからの資金提供を受けて実施された。