熊本市の医療法人聖粒会慈恵病院で、妊婦が身元情報を病院の一部の者のみに明らかにして出産する、いわゆる「内密出産」の事例が複数公表されている状況を受け、法務省と厚生労働省は9月30日、内密出産のガイドライン(妊婦がその身元情報を医療機関の一部の者のみに明らかにして出産したときの取扱い)を策定し、全国に通知した。
ガイドラインでは、内密出産は下記の9つのプロセスが想定されるとした上で、受入医療機関、都道府県等、児童相談所、市区町村など関係各機関に求められる対応を示している。
① 妊婦から医療機関に相談
② 受入医療機関から妊婦に対し、子どもの出自を知る権利の重要性や出産前後に得られる支援等を説明し、身元情報を明らかにした上での出産について説得(説得の場に行政機関が同席することが望ましい)
③ 妊婦が身元情報を明らかにすることに同意しない場合、仮名等で診療録等を作成
④ 出産
⑤ 受入医療機関から母に対し、身元情報を明らかにした上での出生届提出を催告
⑥ 母が出生届を提出する意向がないことが確認された場合、受入医療機関から児童相談所に要保護児童の通告を行う
⑦ 児童相談所から市区町村に対し戸籍作成に必要な情報を提供
⑧ 市区町村長による戸籍作成
⑨ 受入医療機関、市区町村、児童相談所間で連携し、要保護児童への対応を行う
受入医療機関に求められる対応としては「妊婦の身元情報の保存等に関する規程の明文化(妊婦の身元情報を確認・管理する者等)」「規程に基づく妊婦の身元情報の適切な管理(受入医療機関内で身元情報を管理できなくなった場合における他の医療機関等への引継ぎ可能性についてもあらかじめ妊婦に説明)」などを記載。
診療録等への「事実と異なる氏名や住所等の個人情報(仮名等)」の記載については、妊婦が内密出産を希望する場合は「直ちに医師法、保健師助産師看護師法、救急救命士法等の違反となるものではない」とし、仮名等を記載する場合は「そのことが明らかになるように記載すること」を求めている。
加藤勝信厚労相は9月30日の記者会見で、内密出産のガイドライン策定について「逆に内密出産を促す、進めてしまうのではないかといった危惧は議論の中でも当然ある」とし、現場で通常の出産を勧め説得することが前提であることを強調した。
熊本市の大西一史市長は同日の記者会見で、「内密出産の実施の枠組みを示していただいたことで、慈恵病院とともに、新たな事案にも着実に対応していくことができるのではないか」と国への謝意を表し、「ガイドラインの運用により、日本全国で内密出産も含めて予期せぬ妊娠で悩む方々への支援体制の充実が図られ、これまで以上に母子の生命と生まれてきた子どもの出自を知る権利が守られていくものと期待している」と述べた。
【関連情報】
妊婦がその身元情報を医療機関の一部の者のみに明らかにして出産したときの取扱いについて(厚生労働省ウェブサイト)