流産は妊娠の約15%に起こる最大の合併症であり,90%以上が妊娠10週未満に起こる。最近の遺伝学的技術によって,80%以上が胎児(胎芽)染色体数的異常に起因することがわかってきた。女性の年齢が上昇すると,減数分裂における染色体分配エラーが増加する。これが「卵子の老化」である。
流産,死産を繰り返す場合は不育症である。抗リン脂質抗体,子宮奇形,染色体均衡型転座が原因であるが,半数以上は原因不明とされてきた。筆者らは,胎児染色体数的異常が41%を占め,不育症の最大の原因であることを報告した。
欧米では体外受精によって得られた受精卵を網羅的に調べる着床前スクリーニング(preimplantation genetic screening:PGS)が,流産予防のために実施されている。実は,体外受精による出産率は20歳代で20%,40歳代では8%にとどまるため,期待されるほど出産率改善に貢献できていない。一方,既往流産3回の患者は,無治療でも次回妊娠で70%が出産できる。日本産科婦人科学会は倫理的理由からPGSを禁止してきたが,高齢女性のニーズが高まったことから,出産率改善に寄与するかどうかを調べる無作為割付試験を実施する。これは,2回以上流産と胎児(胎芽)の染色体異常の既往のある患者が適応となる。
不育症の女性は自責の念を持つことが多い。そのため,児が先天異常のために亡くなったのか,子宮の問題なのかを判断することは重要である。わが国の産婦人科には流産内容物の染色体検査をする習慣がないが,今後はニーズが高まるだろう。
【解説】
杉浦真弓 名古屋市立大学産科婦人科教授/不育症研究センター長