瘀血(おけつ)とは,血液の流れが滞った状態を指します。局所の循環障害や血管外に漏出した動きのない血液も相当します。
瘀血の徴候としては,視診上は肌の暗色化や細絡(さいらく),皮下血腫,舌診では舌下静脈の怒張,腹診所見としては下腹部皮下のしこりや圧痛などがあります。また女性の場合は,月経周期に伴って生じる月経痛や月経不順,精神神経症状,不正性器出血などが挙げられます。本例のような頭痛もこれに該当します。
片頭痛発作の誘因として月経周期が関係してくることは少なくなく,さらに通常の片頭痛薬では効果がない場合があります。月経周期に伴って頭痛が起こることがはっきりしている場合は,体質・体格や随伴症状を頼りに,まずは漢方薬を用いることで片頭痛発作を回避できることがあります。
瘀血を改善する方剤は駆瘀血剤(くおけつざい)と呼ばれ,体質体格や随伴症状によって使い分けます(表)。
当帰芍薬散は,痩せ型,体力中等度からやや虚証で,顔が青白く,足の冷えや浮腫(夕方になると足が浮腫む)を伴う者に用います。胃腸虚弱者の場合,構成生薬である当帰と川芎が原因で胃もたれを起こす場合がありますが,そのような場合は食前服用にこだわる必要はなく,食後服用も可と指導します。それでも胃もたれする場合は,食前に六君子湯,食後に当帰芍薬散を服用させる方法を試します。
桂枝茯苓丸は駆瘀血剤の代表的方剤ですが,気血水に対応する生薬がバランス良く配合されています。このため虚実中間証からやや実証の者まで幅広く使えます。瘀血の症状に加え,冷えのぼせを訴える患者に適応があります。
桃核承気湯は体格がガッチリした実証の者に用います。さらに便秘傾向があり,月経前になると精神神経症状を伴うことがあります。なお,便秘傾向の者は便通がつくことにより瘀血の改善がみられ,肌がきれいになるというおまけの効果もあります。
月経周期が不定期の場合は,月経の始まりの予測がつかないため,期間限定の投与ではなく,まず定期服用で経過をみるのが無難だと思います。