プライマリ・ケア医(家庭医)は,元来,特定の臓器や疾患に限定せずに,患者およびその家族の背景や価値観も尊重しながら,「総合的に患者・生活者をみる姿勢」を持っています。また,新型コロナウイルスの流行など予測困難な事態が発生した場合にも,発熱外来やワクチン接種業務などで,社会的にも大きな役割を果たしています。しかしながら,それがゆえに幅広いことを経験し,学び続ける必要もあり,その重責性やアイデンティティの問題などから,他の診療科に比べてバーンアウトしやすい傾向があることが指摘されていました1)。
さらに,近年の新型コロナウイルスの流行によって,医療従事者のバーンアウト傾向は世界的に高まり,プライマリ・ケアを担う医療従事者のウェルビーイングは世界全体としての課題であることが顕在化しました。
日本プライマリ・ケア連合学会予防医療・健康増進・産業保健委員会の産業保健チームでは,2021年6月から,産業保健に関する事例検討会を定期的に開催してきました。内容については,参加者からの要望を取り上げていくようにしているのですが,こうした背景からか医療従事者のウェルビーイングや働き方に関するご要望を多く頂き,2022年9月には【病院産業保健 コロナ禍の医療従事者のウェルビーイングを考える】というテーマで事例検討会を開催いたしました。病院産業保健の分野をけん引されている自治医科大学保健センターの小川真規先生をコメンテーターにお招きし,病院産業保健の成功事例を紹介しました。
小川先生には,プライマリ・ケア医(家庭医)が管理医師となることも多い,「診療所における職員のメンタル不調対応」や「院長による独自ルール性」の是非についてもコメントを頂き,私たちも多くの学びと気づきを得ることができました。小川先生が「病院といえど,本来は企業と同じような職場環境配慮が必要」と最初におっしゃっていたことが,非常に印象的でした。
この回の事例検討会参加者を年齢別にみますと,50代が38.5%,ついで40代が24.2%で,診療所などで管理的立場に立つ機会が増える年代の参加者が多くなっていました。一方で,30代の参加者も22%と少なくなく,幅広い世代の医療従事者に関心のあるテーマということがわかりました。また,参加者の産業保健の経験年数は,未経験が27.7%,1年以上5年未満が23.3%と,これまで産業保健に対して馴染みがあまりない方が半数を占めていました。
こうしたことからは,医療従事者は “労働者”という感覚をあまり持たず,職場環境の整備や働き方などについて考える産業保健と医療従事者のウェルビーイングとのつながりについて,イメージを持つことができていない可能性が示唆されました。
しかし医療従事者の皆様の関心度は高く,過去最高の参加申込者数となり,また,今回は初めて臨床心理士の方にもご参加頂いたり,日本プライマリ・ケア連合学会員以外の方からの参加希望のお問い合わせも頂いたりしました。参加された非学会員の皆様は,日本プライマリ・ケア連合学会への関心も高く,今後,学会への入会を考えてくださっている方も多くみられました。
事例検討会後のアンケートでは,以下のような感想を頂きました。
・具体的な事例と対応例を聞くことができて良かった。
・自施設の職員の労働環境,健康状態に意識を向けるきっかけになりました。
・専攻医の先生には,理解しやすいように思います。
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