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婦人科疾患合併妊娠[私の治療]

No.5167 (2023年05月06日発行) P.54

池田智明 (三重大学医学部産科婦人科学教室教授)

登録日: 2023-05-03

最終更新日: 2023-05-01

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  • 婦人科疾患合併妊娠は,何らかの婦人科疾患を有した状態での妊娠で,妊娠前に診断されていることもあるが,妊娠を契機に新たに診断されることもある。婦人科疾患は良性疾患と悪性疾患にわけられる。良性・悪性疾患ともに妊娠中は非妊娠時とは異なった取り扱いが必要になる場合があり,注意を要する。妊娠中に治療介入が必要となる可能性のある代表的な疾患は,良性疾患は子宮筋腫,良性卵巣腫瘍,悪性疾患は子宮頸癌,卵巣癌が挙げられる。

    ▶診断のポイント

    子宮筋腫,卵巣腫瘍の診断は,内診や超音波検査が用いられる。妊娠初期は,比較的診断が容易であるが,妊娠中期以降は子宮が増大するため,内診や超音波検査での診断が困難となることも多い。必要に応じてCTやMRI検査を用いる。また,卵巣腫瘍は,超音波検査などの画像検査によって良・悪性の評価を行い,複数回の検査で腫瘍径の変化を観察することも重要である。

    子宮頸癌の診断は,非妊娠時と同様に細胞診,コルポスコピー,組織診,円錐切除術を用いて子宮頸部に原発したがんであること,かつ組織学的な確認がされることでなされる。妊娠中の円錐切除術は出血,流・早産を惹起することが多く,後述する一定の条件下でのみ実施する。卵巣癌の最終診断は,手術による肉眼所見,摘出された標本の病理学的診断による。術前の補助診断として内診,超音波検査,CT,MRI検査を用いて診断する。骨盤部CTによる被ばく線量は平均25mGy(最大75mGy)であるため,母体への有益性を考慮して検討する。子宮頸癌,卵巣癌の診断の詳細については,各取り扱い規約を参照されたい。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    【子宮筋腫】

    妊娠・分娩・産褥の予後は比較的良好であるため,一般的に経過観察する。ただし,妊娠中は,子宮筋腫が変性を起こし疼痛を生じることがあるため,疼痛に対する対症療法を行う。

    【良性卵巣腫瘍】

    良性卵巣腫瘍が疑われる場合は,原則直径6cm以下の場合は経過観察,10cmを超える場合は手術を考慮する。6~10 cmの場合,単房性囊胞性腫瘤は経過観察を,それ以外で悪性腫瘍が疑われる場合は手術を考慮する。妊娠継続を希望する場合の手術時期は,胎盤からのプロゲステロン分泌が確立される12週以降が望ましい。

    【子宮頸癌】

    生検組織診が上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)で,細胞診,コルポスコピー所見が一致している場合は,分娩後まで円錐切除術を延期する。この点は,非妊娠時と取り扱いが異なるところである。妊娠中の円錐切除術は,診断を目的として行い,微小浸潤がん以上を疑う際に実施することが望ましい。浸潤がんの治療は子宮頸癌の標準治療が原則であるが,進行期や妊娠週数(胎児の子宮外生存が可能か否か)により,妊娠継続の可否や治療方法が異なるため,患者本人や家族の希望も考慮し,個別に対応する。

    【卵巣癌】

    胎児の子宮外生存が困難な時期で,妊孕性温存の希望がある場合は片側付属器切除術,対側卵巣生検,腹水・洗浄液細胞診,大網部分切除,骨盤内・傍大動脈リンパ節のサンプリングを行い治療方針を決定する。児の子宮外生存が可能な時期であれば,胎児娩出後に標準治療を行う。

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