悪性腹膜中皮腫は,腹膜の中皮細胞から発生する悪性疾患である。腹膜から発生する腹膜癌とは異なるがんであり,区別が必要である。悪性中皮腫の患者のうち2割程度の頻度であり,希少がんのひとつである。
悪性腹膜中皮腫の発症原因のひとつとして,アスベスト(石綿)がある。アスベストを吸ってから悪性腹膜中皮腫が発生するまでの期間は,平均で40年程度とされており,日本では1970~80年代にアスベストが多く使用されていることから,発症のピークは2020年代後半と考えられている。職業関連などでアスベストの曝露歴を有する場合は,アスベストによる疾病として労災認定される可能性がある。
早期では無症状であることが多い。進行した場合,腹水による腹部膨満感,腹痛,腰痛,食欲不振,排便異常などの症状を呈する。
腹水細胞診では診断が困難であり,確定診断のためには腹膜の組織生検が必要である。超音波ガイド下生検,腹腔鏡下生検,開腹生検を考慮する。
他の鑑別疾患の精査のために血液検査や画像検査は重要である。また,消化器癌(胃癌や大腸癌など)や女性における腹膜癌を除外するために,上下部内視鏡検査や婦人科の診察を行うことも重要である。採血では,CA125やCA15-3の値が高いことが多い。
CT検査では,腹水貯留や腹膜の結節,肥厚などの所見を認める。腹水検査や腹水細胞診は診断のための補助的な役割にとどまることが多く,確実な確定診断のための検査とは言いがたい。生検検査を検討すべきである。
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