月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)の西洋医学的治療にはOC/LEP(ピル)やSSRIなどの向精神薬が用いられるが,患者が服用に抵抗感を示すケースがあり,また挙児希望や身体的背景(年齢や既往歴,喫煙など)によってOC/LEPを処方しづらい場合がある。上記の症例のように,血栓症リスクからOC/LEPが「慎重投与」となる40歳代以降に,これまでそれほど気にならなかったPMS症状が悪化・顕在化するケースは比較的多い。PMSにおいて西洋薬での治療が難しい場合,身体症状・精神症状どちらも有する場合などで特に漢方薬は有用な治療手段となる。
東洋医学的にPMSは気・血・水のバランスが乱れている状態と考えられるが,PMSが起こる黄体期はプロゲステロンの分泌増加により体内の水分貯留増加の傾向があり,特に「水滞」の病態を考慮する必要がある1)2)。また,めまい,立ちくらみには「水滞」が関与していることが多いとされる3)。「水滞」の特徴的サインとして,むくみやすい傾向,気圧や天候による体調変化(いわゆる気象病),舌の腫大や歯痕などがある。
水滞徴候があり,めまいを訴えるPMS患者に用いられる漢方薬には,五苓散,当帰芍薬散,苓桂朮甘湯,半夏白朮天麻湯などがある。これらの処方はすべて利水剤といわれる漢方薬であり,表に使い分けを示した。
症例で用いた苓桂朮甘湯は,水滞+気逆の病態に適する。立ちくらみ,浮動性めまいが,動悸や吐き気を伴って発作性・一過性に生じ,月経前にその頻度が増加し不安やいらいらを感じやすくなる,というケースが適する。婦人科で,めまいや動悸に用いる漢方薬といえば当帰芍薬散が有名だが,苓桂朮甘湯は,冷えの訴えに乏しく,軽度~中等度の精神症状を伴う発作性のめまいに試してみる価値がある。
当帰芍薬散は水滞+血虚(瘀血)の徴候を示す患者に適する。めまいや動悸,むくみを訴えるPMS患者の中でも,貧血傾向や,月経痛・四肢末端の冷えなど微小循環障害を疑う徴候のある場合に用いられる。