閉経後の高齢女性には,細菌性膀胱炎の再発を繰り返す例がしばしば存在する。
女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]1)のCQ19「再発性細菌性膀胱炎にはどのように対処すべきか?」には,高齢女性(閉経後)の膀胱炎に対する第一選択薬は,キノロン耐性率が高いことによりセフェム系薬またはBLI(β-ラクタマーゼ阻害剤)配合ペニシリンと記載されている。これらの抗菌薬は急性期の治療には有用であるが,対症療法に準じた位置づけである。
一方,漢方薬は体質に働きかけて発症を抑える効果を期待でき,原因療法に近い。
加齢により,腎虚と呼ばれる老化に関連するさまざまな症状や下半身機能障害が現れる。腎虚に伴う下部尿路症状や腰痛症,下肢の冷えに対しては八味地黄丸が用いられる。下肢の冷えが強い場合,八味地黄丸に牛膝(血流や下肢機能の改善)と車前子(利水作用)が追加され,体を温める作用を持つ附子が増量された牛車腎気丸を選択する。
牛車腎気丸は膀胱炎以外にも,頻尿を呈する代表的な疾患である過活動膀胱(急に起こる我慢できないような強い尿意である尿意切迫感がある)2)やフレイルの要因となるサルコペニアに対する効果も期待できる3)。
類似した再発性細菌性膀胱炎であっても,漢方薬を「証」すなわち患者個人の状態(体質・体力・抵抗力・症状の現れ方など)に応じて使い分けることで奏効率が向上する。中でも下肢の冷えと胃腸障害は分かりやすい目安であり,他の候補薬を表にまとめた。
生薬組成に地黄が含まれる牛車腎気丸,五淋散,猪苓湯合四物湯は,著しく胃腸が虚弱な患者では食欲低下などを生じる可能性あり注意が必要である。