日本では「生殖補助医療」(ART)の利用者が多く、新生児の17人に1人(6.2%)はARTにより誕生している(2018年)[内閣府]。しかしART後に妊娠すると、周分娩期の脳卒中リスクは通常に比べ2倍以上となる可能性がある。2月7日より米国フェニックス(アリゾナ州)で開催された国際脳卒中学会(ISC)において、米国・プレスビタリアン=ワイルコーネル医療センターのAlis J Dicpinigaitis氏が、米国大規模データの解析結果として報告した。
ARTに伴う脳卒中リスク上昇はこれまで、肯定する報告[Sachdev D, et al. 2023]と否定する報告[Ge SQ, et al. 2019]が混在していた。そこでそれらを上回るサンプル数での検証に至ったという。
今回解析対象となったのは、15歳以上55歳以下の出産入院1900万人強である。米国最大級の入院例レジストリ(National Inpatient Sample)から抽出した。
入院期間中の「脳血管障害」発生率と「妊娠前ART」実施率の相関を検討した。脳血管障害の内訳は、「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」「脳静脈血栓症」である。
・ART実施率
上記1900万人強中、ARTの実施歴があったのはおよそ20万人(1.1%)だった。
・脳血管障害発症「率」
まず入院中「脳血管障害」の発症率は、ART「実施」群で「非実施」群に比べ著明に高値となっていた(27.3/10万人年 vs. 9.1/10万人年)。「脳血管障害」の内訳別に比較しても、「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」「脳静脈血栓症」のいずれも、ART「実施」群の発生率は「非実施」群に比べ3~4倍の有意高値だった。さらにART「実施」群では脳血管障害発症後の死亡率も著明に増加していた(27% vs. 6%、P<0.001)。
・脳血管障害発症「リスク」
次にART「実施」群と「非実施」群の入院中「脳血管障害」リスクを多変量解析で比較した。その際、解析前にまず、傾向スコアを用いた「確率逆重み付け」で両群の背景因子均等化を図った。その結果、ART「実施」群における「脳血管障害」オッズ比(OR)は2.14(95%信頼区間[CI]:2.02-2.26)という有意高値だった。中でも「脳出血」のリスク増加が著明だった(OR:5.37、95%CI:4.82-5.98)。
Dicpinigaitis氏は「ARTを危険視して避けるべきではない」としながらも、希望者に対しては「リスク評価を含めたカウンセリング」が必要とし、「ARTを施行するのであれば既知の脳卒中リスク因子の管理も開始すべきだ」と述べた。
本研究は外部資金を受けていない。また学会報告に先立つ2月1日、Stroke誌に掲載された。