HELLP症候群は,溶血(hemolysis),肝機能増悪(elevated liver enzyme),血小板数減少(low platelets)を特徴とし,母体死亡や胎児・新生児死亡の原因となる,妊娠および産褥期に発症する予後不良な疾患である1)。
急激に病態が悪化する恐れがあるため,迅速な診断が必要である。上腹部痛,悪心・嘔吐,全身倦怠感が主な症状であり,妊産婦にこれらの症状がある場合には,本症例を積極的に疑い,肝機能や凝固系を含めた血液検査を施行すべきである。
HELLP症候群による母体合併症には,播種性血管内凝固症候群(DIC),常位胎盤早期剝離,子癇,急性腎不全,肺水腫,脳出血,肝被膜下出血があり,合併症の存在を確認しながら治療を進めていく。一次施設でHELLP症候群に遭遇した際には,高次施設への母体搬送を検討すべきである2)。妊産婦で上記合併症が存在する場合や34週以降,胎児機能不全例では急速遂娩を検討すべきである2)。34週未満の症例は,胎児肺成熟目的のステロイド投与をし,24~48時間の待機後の妊娠終結を考えてよいが,妊婦と胎児の厳密な管理が必要である。しかし,HELLP症候群は母体死亡の危険性も高いことから,診断後すぐに急速遂娩の方針としてもよい。
診断基準には,テネシー分類とミシシッピ分類が主に使われている。ミシシッピ分類は,HELLP症候群の重症化を念頭に置いて作成されている。そして,ミシシッピ・プロトコルという診療指針を提唱している。ミシシッピ分類では,LDH≧600IU/Lに加え,以下のようになっている。
ClassⅠ:ASTまたはALT≧70IU/L,血小板数≦5万/μL
ClassⅡ:ASTまたはALT≧70IU/L,血小板数5万/μL<,≦10万/μL
ClassⅢ:ASTまたはALT≧40IU/L,血小板数10万/μL<,≦15万/μL
また,妊娠高血圧腎症に加えて,ASTまたはALT≧40IU/L,血小板数≦15万/μLを満たす場合,partial HELLPと呼称する概念もある。ミシシッピ・プロトコルでは,ClassⅠ,Ⅱにデキサメタゾンを投与する。ClassⅢやpartial HELLPでは,子癇,重症高血圧,中枢神経症状,季肋部痛,その他の合併症が存在する場合に投与するとしている3)。ClassⅠ〜Ⅲ,partial HELLP全例には硫酸マグネシウム投与と降圧療法を施行する。
HELLP症候群では,5~56%にDICを発症するため,病状に合わせて輸血し,凝固因子を補充する。帝王切開を控えている場合は,血小板数≧5万/μL,フィブリノゲン≧200mg/dLが最低限必要である。
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