食道・胃静脈瘤は門脈圧亢進症を背景に発生し,基礎疾患としては,ウイルス,アルコールなどの各種原因による肝硬変,特発性門脈圧亢進症,肝外門脈閉塞症,バッド・キアリ症候群,肝癌や膵癌など悪性腫瘍による門脈閉塞,脾腫を伴う骨髄増殖性疾患などがある。出血例に対しては,消化器内視鏡を用いて止血術を行う。ひとたび出血をきたすと命に関わることもあるため,ある程度の大きさになった静脈瘤や,内視鏡で出血危険因子を認める場合は予防的治療の適応となる。
門脈圧亢進症をきたす病態が疑われた際には,積極的に上部消化管内視鏡検査を行う必要がある。特に,肝硬変に伴う様々な徴候(くも状血管拡張,手掌紅斑,腹水,腹壁静脈拡張,黄疸,羽ばたき振戦,女性化乳房,脾腫など)を認めた際には,食道・胃静脈瘤の合併も考えて積極的に内視鏡検査を施行する。
造影CT検査でも食道・胃静脈瘤の存在は診断できるが,治療適応を判断するためには内視鏡検査が必須である。治療適応については,日本門脈圧亢進症学会が刊行している『門脈圧亢進症取扱い規約』1)に基づいて判断する。内視鏡的に出血危険因子〔食道静脈瘤・胃静脈瘤のいずれも,静脈瘤形態が連珠状で中等度の大きさ(F2)以上またはred color(RC)サイン陽性,胃静脈瘤では静脈瘤上の粘膜にびらん〕を認めた場合は予防的治療の適応となる。
基本的には,食道静脈瘤・胃静脈瘤のいずれも内視鏡治療を中心に治療計画を立案する。内視鏡治療には,内視鏡的硬化療法(EIS)と内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)があり,患者状況に応じて治療法を選択する。出血例以外の治療に際しては,事前に超音波内視鏡(EUS)や3D-CTにより食道・胃静脈瘤の血行動態を解析し,静脈瘤供血路や食道胃壁外の血管構造を把握する。治療後の供血路や食道壁外血管(左胃静脈・後胃静脈・短胃静脈などの供血路,食道壁貫通静脈,壁在傍食道静脈)の残存は再発に関与するため,しっかりと術前評価を行い,消失させるべき血管を理解しておく。また,内視鏡的難治例に対してはIVR(interventional radiology)による治療や外科治療を考慮する。不完全治療などにより治療後の再発が懸念される場合はβ遮断薬の投与を行い,門脈圧低下を図る。
出血例に対しては,まずEVLで止血を行い,追加治療は後述する予防例に準じて施行する。予防例に対しては,肝予備能がChild-Pugh分類のCでない限りは,EISを第一選択とする。EISには,オルダミンⓇ注(モノエタノールアミンオレイン酸塩)の血管内注入法,エトキシスクレロールⓇ注(ポリドカノール)の血管外注入法,アルゴンプラズマ凝固法による地固め法,の3段階がある。可能な限り,これら3段階治療を実施する。一方,肝予備能が不良な場合は,オルダミンⓇの血管内注入法は行わず,EVL単独治療(密集結紮法)もしくはEVL+血管外注入法and/or地固め法を行う。
出血例に対しては,組織接着剤(ヒストアクリル)の胃静脈瘤内への注入による止血術を行う。肝予備能が保たれている場合(Child-Pugh A/B)は,引き続いてオルダミンⓇの血管内注入法を行い,供血路側の血栓化を図る。予防例に対してはEISを第一選択とし,ヒストアクリルの注入,もしくはEUSガイド下に静脈瘤を穿刺し血管塞栓用コイルを留置する。その後の治療は出血例と同様である。内視鏡的難治例ではIVRや外科治療を検討する。
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