妊娠中後期では,羊水産生の主体は胎児尿,羊水吸収の主体は嚥下である。したがって,胎児尿の産生過多や嚥下減少で羊水過多を生じる。原因としては胎児形態異常や母体の糖尿病(diabetes mellitus:DM),妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)が多く,母体の子宮収縮増強や子宮頸管短縮により早産リスクが高まる。一方,羊水過少の原因としては早産期前期破水(preterm PROM)や胎児尿量の減少が多い。
羊水過多・過少ともに超音波断層法により診断する。羊水過多は羊水インデックス(amniotic fluid index:AFI)で24~25cm以上,羊水最大深度(maximum vertical pocket:MVP)8cm以上,羊水過少ではAFI 5cm未満,MVP 2cm未満などの基準で診断する。なお,羊水過多を疑った場合には母体DMやGDMの有無,羊水過少を疑った場合にはpreterm PROMや母体内服薬剤〔アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(angiotensin Ⅱ receptor blocker:ARB),アンジオテンシン変換酵素阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor:ACEI)など〕の有無を再確認する。
羊水過多の場合には,原因検索を行いながら,切迫早産や子宮頸管短縮などの母体症状に対応する。特に,腹部膨満感,呼吸困難,子宮収縮増加,子宮口開大,子宮頸管長の短縮などを認めた場合には羊水除去を検討する。羊水過多の多くは胎児側の要因である。たとえば,胎児の嚥下が低下する上部消化管閉鎖(食道閉鎖,十二指腸閉鎖,空腸閉鎖など),中枢神経障害,筋骨格系異常,染色体異常などが該当する。また,一絨毛膜二羊膜(monochorionic diamniotic:MD)双胎における双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)の受血児,胎児腫瘍・胎盤血管腫などの胎児高拍出状態も羊水過多を生じるが,特発性羊水過多も多い。なお,母体側の要因でも羊水過多は生じうる。たとえば母体DM・GDMに伴う胎児高血糖は羊水過多を生じる。
羊水過少の場合には,まず母体の再問診を行い,ARBやACEIなどの降圧薬内服の有無を確認する。妊娠中にこれらの薬剤を内服すると羊水過少となる。次に,腟鏡診によりpreterm PROMの有無を確認する。そして,これらに異常がない場合は,胎児因子を考慮する。羊水量は主に胎児の嚥下と尿量のバランスで決まる。胎児の嚥下低下は羊水過多の原因となるが,嚥下亢進により羊水過少となることは考えにくいため,羊水過少は胎児尿量の減少と同義と考えてよい。胎児尿量が減少する病態として,胎児腎尿路系の器質的異常(Potter症候群,両側多囊胞性異形成腎,尿道閉鎖など),胎児尿量の機能的減少〔胎児発育不全,過期妊娠,MD双胎(TTTS供血児)など〕を考慮する。なお,近年,慢性早剝羊水過少症候群という難治性の疾患概念も提唱されており注意を要する。
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