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特集:内科医のための糖尿病運動療法─目的設定と評価,指導のための“4つのS”

No.5227 (2024年06月29日発行) P.18

大坂貴史 (綾部市立病院内分泌・糖尿病内科部長/京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学講座客員講師)

登録日: 2024-06-28

最終更新日: 2024-06-26

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2009年京都府立医科大学卒業。糖尿病内科専門医・指導医,医学博士。市中病院での診療に加えて大学で臨床研究にも従事しつつ,SNSで正しい糖尿病への理解を呼びかけている。

1 糖尿病運動療法の目的

  • 運動療法の目的は「血糖値を下げる」「体組成の変化」「イベントリスクを減らす」である。
  • 目的に応じてベストな運動療法は変わるが,どの運動もイベントリスクを減らす効果がある。

2 糖尿病運動療法の評価

  • 運動療法を開始する前には,現時点の身体活動量を把握することが重要である。
  • 身体活動量の評価には,「質問紙」「歩数計」「活動量計」などがある。

3 4つのS

  • 糖尿病運動療法を大別すると,「Sitting(座位行動)」「Stepping(歩行)」「Sweating(中高強度有酸素運動)」「Strengthening(筋トレ)」の4つのSである。

4 運動療法の禁忌と事前評価

  • リスクの高い人は,短時間の低強度の運動から始めて,耐えられる範囲で徐々に継続時間と強度を増やすことが推奨される。
  • 糖尿病合併症がある場合は,強度の高い身体活動は禁忌となるが,日常生活動作を超えない場合は,実施が十分可能である。

5 実際の運動療法指導

  • 運動療法の開始が難しいケースは多いが,行動経済学を有効活用する。
  • 評価→実施→フィードバックの流れが重要である。

1 糖尿病運動療法の目的

まず,はっきりさせておくべきことは,糖尿病運動療法の目的である。患者さんは「血糖値を下げたい」「体重を減らしたい」という,かなり近いアウトカムを運動療法の目的としていることが多いが,運動指導をする医療従事者としては,大きな目的として以下の3つがあることを理解しておく必要がある。

(1)血糖値を下げる

糖尿病患者にとって最も重要であり,大変わかりやすい。どんな運動をしても血糖値にはよい影響を与えるが,タイミングがその大小を左右する1)

具体的に食後の運動は,食前の運動に比べて血糖値を大きく下げるため,血糖値を意識するのであれば食後の運動を推奨すべきである。ただし,他の時間の運動が血糖値に対して効果がないわけではなく,実際に他の時間に運動をしている患者さんを否定することがないようにしたい。また,逆に食後の座位行動は,血糖値の上昇に大きく影響を与えるため,できるだけ避けるように指導したい。現実的に「食後はゆっくりテレビ」という習慣の患者さんは多いため,それを家事などに置き換えるだけでも効果的である。

食後,何分後からの運動がよいかということがしばしば議論されるが,明らかにはなっていない。それは,食事の内容により消化・吸収の時間や血糖値が上がるタイミングが異なり,また,運動の内容によって血糖値が下がりはじめる時間も異なるためである。食後すぐでは消化不良になりやすく,血糖値が上がりきってからでは遅いため,中等度以上の強度の運動であれば30分を1つの目安として説明することが多いが,座位行動は食後すぐから避けるほうが効果的である。

(2)体組成の変化

具体的には,骨格筋量を増やすこと,体脂肪量を減らすこと,の2点に大別される。骨格筋はグルコースを多く使用し,インスリンのターゲット臓器であると言われている。そして,骨格筋量減少の抑制は,サルコペニア予防の観点からも重要である。また,脂肪組織はインスリン抵抗性と深く関係があり,糖尿病診療においても大切である。

骨格筋量を増やすにはレジスタンストレーニング(筋トレ)が最も優れており,骨格筋量の低下した患者さん,高齢者,減量中の患者さんにとって優先されるべき運動である2)。減量に対して運動はあまり有効ではないが,長時間実施が可能な有酸素運動は優先される。

(3)イベントリスクを減らす

糖尿病の治療目標は,血糖値を改善することを通じて合併症の発症・進展の阻止を行い,健康な人と変わらない寿命・人生を確保することにある(図13)。そのため,運動の究極的な目標は,糖尿病によって増える様々なイベントリスクを減らすことにある。具体的に運動によって減らせるリスクは,「全死亡率の低下」「心血管死の抑制」「高血圧の発症予防,血圧低下」「一部のがんの発症予防」「骨粗鬆症の予防」「不安やうつの症状の軽減」「認知的な健康」「良質な睡眠」などとされている4)


これらのアウトカムの違いによって多少の差異はあるものの,基本的にはあらゆる運動はこれらのどのイベントリスクも減らすとされているので,自分の好みや環境などに合わせて積極的に実施していきたい。

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