株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

褐色細胞腫・パラガングリオーマ[私の治療]

No.5241 (2024年10月05日発行) P.33

田辺晶代 (国立国際医療研究センター病院内分泌代謝内科/内分泌・副腎腫瘍センターセンター長)

登録日: 2024-10-02

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 褐色細胞腫・パラガングリオーマ(pheochromocytoma/paraganglioma:PPGL)はクロム親和性細胞から発生する腫瘍で,約90%は副腎原発(褐色細胞腫),約10%は副腎外の傍神経節原発(パラガングリオーマ)である。約90%の症例はカテコールアミンを産生し,高血圧,頻脈,耐糖能異常などを呈する。褐色細胞腫の約10%,パラガングリオーマの約30%は転移を生じる。本症では過剰なカテコールアミンが心臓,血管系,消化管等に分布する交感神経α受容体,β受容体に作用し,血圧上昇,心拍数上昇,循環血漿量減少,不整脈などの循環動態の変化,腸管運動低下,耐糖能異常等を引き起こす。

    ▶診断のポイント

    PPGLに特徴的な症状として血圧上昇・頻脈・発汗発作が知られているが,発作の自覚症状がない持続型高血圧も多くみられる。また正常血圧例,偶発腫瘍として発見される例もある。スクリーニング検査は,発作性高血圧,治療抵抗性高血圧,副腎偶発腫瘍の症例を対象に,血中カテコールアミン分画および尿中メタネフリン分画を測定する1)。高血圧などの症状を呈する症例の腫瘍は径3cm以上のことが多い。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    診断確定後は速やかにα遮断薬およびβ遮断薬による高血圧,頻脈治療を行う。α遮断薬は少量から開始し,起立性低血圧に注意しながら5~7日おきに最大用量まで漸増する。PPGLおよび疑い症例にはβ遮断薬単独投与は禁忌である。そのため,まずα遮断薬あるいはαβ遮断薬を投与する。ただし,多くのαβ遮断薬はα遮断作用よりβ遮断作用が優位であるため注意が必要である。特にカルベジロール,アロチノロールは,添付文書上,未治療の褐色細胞腫には禁忌である。α遮断薬単独投与によりβ受容体刺激が増強されると頻脈を生じる。この場合はβ遮断薬を併用する。β遮断薬は,β2受容体遮断が望ましくない喘息などの合併症がなければ,非選択性がよい。血圧コントロールが困難な場合はCa拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を併用する。循環血漿量を保つため,食事による食塩摂取量を増加させる。

    局在診断がつけば,速やかに外科的摘出術を施行する2)。周術期に著しい血圧変動を生じて重篤な状態になる危険があるため,術前には十分量のα遮断薬あるいはαβ遮断薬を投与する。この際,薬剤による起立性低血圧の発症に注意が必要である。循環血漿量を増加させるため,生理食塩水点滴を施行する。

    カテコールアミン過剰による重症便秘やイレウスには,α2受容体遮断が必要である。わが国で使用可能な経口α遮断薬はα1受容体遮断薬のみであるため,α1受容体とα2受容体の両者を遮断する非選択的α遮断薬として静注薬のフェントラミンを使用する。

    α遮断薬およびβ遮断薬による治療では十分な効果が得られない場合,外科手術前の処置,外科手術が適応とならない患者の管理,転移性褐色細胞腫患者の慢性的治療には,カテコールアミン合成酵素阻害薬であるデムサー(メチロシン)を使用する。
    高血圧クリーゼの際にはフェントラミンを使用する。循環血漿量を保つため,生理食塩水の持続点滴を行う。

    残り1,224文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top