小腸出血は全消化管出血の約5%とされ,上下部消化管内視鏡検査にて原因がわからない消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding:OGIB)の多くが小腸出血である。臨床的には,通常の上下部消化管内視鏡による検査・治療が困難な,十二指腸乳頭肛門側から回腸末端の範囲での出血を小腸出血として扱うことが多い。原因疾患は血管性病変,炎症性病変,腫瘍性病変,憩室など多岐にわたる。
吐下血や全男性・閉経後女性の鉄欠乏性貧血などOGIBを示唆する所見があり,上下部消化管内視鏡検査にて出血源が同定できない場合,小腸出血を疑う。吐血の有無や便の色・性状・排便回数は出血源の病変位置の推定に役立ち,BUN/Cr比の上昇があれば近位小腸からの出血を疑う。年齢,症状,既往歴や使用薬剤,家族歴等の情報から原因疾患を推定する。「小腸内視鏡診療ガイドライン」1)のOGIB診断アルゴリズムでは,最初に胸腹部dynamic CTが推奨されており,extravasation,狭窄,腫瘤や壁肥厚,リンパ節腫大等の所見を探す。
出血直後のCTでは高輝度腸液の分布が出血部位の推定に役立つ。自然止血後と推定される場合は病変を検出しやすくするため水や腸管洗浄薬内服後CT enterographyを施行する。CTで有意所見がない場合はカプセル内視鏡検査(capsule endoscopy:CE)を行う。CEでは通過の速い十二指腸〜上部空腸の病変が偽陰性になりやすいことを念頭に置く。
CTやCEで有意所見を認めた場合,詳細観察・生検による診断確定のためバルーン小腸内視鏡検査(balloon-assisted enteroscopy:BAE)を行う。若年者では,CEで同定率が低いMeckel憩室や狭窄の懸念があるCrohn病の頻度が高く,CEを省略し経肛門BAEを考慮する。炎症性病変では薬剤起因性小腸粘膜障害,Crohn病,ベーチェット病,腸結核,虚血性小腸炎等を鑑別疾患に挙げ,病変分布や潰瘍形態を詳細に観察する。
上皮性腫瘍や悪性リンパ腫等の腫瘍性病変ではBAEによる生検診断が可能だが,CTや内視鏡所見で消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)等の多血性の腫瘍が示唆される場合は,生検後出血のリスクを考慮し点墨等のマーキングにとどめ,外科的手術を検討する。
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