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出産一時金、総額の維持が不可欠だ [お茶の水だより]

No.4696 (2014年04月26日発行) P.8

登録日: 2014-04-26

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▼政府の経済財政諮問会議の民間議員が、2030年には現在約「1.4」の合計特殊出生率を「2.07」まで回復させ、50年後も1億人の人口規模を確保するという目標を提案した。甘利明経済担当相も「子を欲しい人が意思を発揮できる環境を整備するのが政府の役目」としており、政府が6月にまとめる「骨太の方針」や成長戦略にどう盛り込むかが注目される。
▼「子を欲しい人が意思を発揮できる環境」に逆行する動きもある。産科医療補償制度の保険料が来年1月から現行の3万円から1万6000円に引下げとなることに伴い、「出産育児一時金」の減額が社会保障審議会医療保険部会で検討されているのだ。一時金は保険料込みで原則42万円となっており、保険者の間でも「あくまで一時金自体は39万円」とする声がある一方で、「少子化対策の観点から42万円は維持すべき」との声もあり意見は分かれている。
▼厚労省の調査で、正常分娩における出産費用の全国平均は一時金を6万円以上上回る約48万7000円であることが分かった。2012年度の合計特殊出生率は「1.41」と16年ぶりの高水準を記録したが、この数字は経済的にゆとりのある30代以上の出生率が大きく伸びたことによるもので、20代は落ち込んでいる。20代にとっては出産・育児費用の負担感は大きく、一時金が減額となることで出産に対し今以上に負のインセンティブが働く恐れもある。
▼出産費用そのものも3年間で約1万2000円上昇した。そのうち約9000円が分娩料だったことから、医療保険部会では「一時金を基準にした価格を医療機関が設定しているのではないか」との指摘もあったが、昨年の医療経済実態調査によれば産科の収支は悪化している。また、14年度診療報酬改定でも帝王切開術の点数が10%以上も減額されるなど、産科を取り巻く環境は厳しく、こうした状況を踏まえると分娩料は今後も上昇せざるをえないだろう。
▼一時金39万円と保険料3万円は法律上で明確に区別されているため、保険料の減額相当分はまず引き下げるのが妥当だ。一方、少子化対策としての一時金を総額いくらにするかについては、改めて検討する必要がある。実質賃金が伸びない中での消費税率引上げにより、若い世代の経済的な負担は増している。人口減に歯止めをかけるには、低迷を続ける20代の出生率を上向かせる取り組みが重要なのは言うまでもない。甘利担当相の言う「環境の整備」には総額42万円の維持が不可欠だ。


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