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PGSが問いかける社会の多様性 [お茶の水だより]

No.4738 (2015年02月14日発行) P.10

登録日: 2015-02-14

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▼「一般的なスクリーニングとして検査を始めるのではない。特別な適応の方にPGSが有益かどうか検証することが研究の目的だ」。7日に開かれた着床前受精卵遺伝子スクリーニング(PGS)の臨床研究に関する公開シンポジウム。流産予防を目的に来年度から実施予定の研究計画の説明後、参加者が「PGSが解禁される印象だ。多様な社会を認めないことになってしまう」と疑問を呈したのに対し、日産婦の幹部は冒頭のように話し、理解を求めた。
▼日産婦は現在、重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性があるなどの場合に限り、特定の遺伝子異常を診断する「着床前遺伝子診断」を認めている。一方で、染色体の数的異常や性別などを検索するPGSは禁止。欧米の学会もPGSを推奨するエビデンスがないとの見解を発表していた。
▼そうしたなかで日産婦がPGS臨床研究を実施する方針を示したのは、(1)日本の生殖医療事情、(2)新しい遺伝子診断解析技術の登場、(3)新技術の有効性検証─という要因がある。2012年のデータでは、日本は27人に1人が生殖補助医療で誕生しており、治療を受けている女性の年齢のピークは39歳だ。こうした傾向は先進国の中で日本が顕著で、挙児希望年齢の高齢化により、染色体数的異常胚の増加による体外受精不成功と流産が増えている。さらに、限定した染色体を顕微鏡で視認する従来法に代わり、コンピューター解析により受精卵のすべての染色体情報を調べる新しい検査法が登場。海外でも2010年から有効性を検証する臨床研究が開始した。
▼ただ今回の研究では、異常が検出されない胚を移植することから、“流産を起こさない異常胚”は排除の対象。そのため先天性疾患の患者団体が研究中止を求めている。さらにシンポでは研究に慎重な医師から、スクリーニングで得られる情報が増えることで、パーフェクトベビーを求める危険性が指摘されたほか、海外では、子の遺伝情報を知る権利を親が有しているのか議論されていることが紹介された。
▼倫理的問題をはらむ医療技術を実施するには、医学的検証のみならず、国民的議論による合意形成が欠かせない。そのためには、その議論の土壌についても目を向ける必要があるのではないか。丁寧な議論を進めるには、先天性疾患を抱える人が暮らしやすい社会であることが大前提となる。多様性を受容する社会づくりに医学が一層貢献することで、より成熟したPGSの議論ができるのだろう。

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