株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

PHPT術前・術後追加治療の適応

No.4772 (2015年10月10日発行) P.53

宮 章博 (隈病院副院長/診療本部本部長)

登録日: 2015-10-10

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)では続発性骨粗鬆症が生じることが知られており,PHPTを治療する理由のひとつとなっています。原因となる腫大副甲状腺の摘出によって,術後に骨密度の上昇を認めることがほとんどですが,術前の骨粗鬆症の程度や術後の状態によっては追加の薬剤治療を考慮すべきと考えます。どのような症例に追加治療を行うべきか,その時期や薬剤,治療の指標について多数の経験を有する隈病院・宮 章博先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐藤伸也:福甲会やましたクリニック副院長

【A】

PHPTは,副甲状腺の腺腫や過形成のために副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)が自律的に分泌される疾患です。PTHは骨代謝回転を亢進させる作用を有しており,PHPTでは骨形成と骨吸収の両者が亢進します。手術前後の骨代謝マーカーを調べると,骨吸収マーカーの骨型酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ-5b(tartrate-resistant acid phosphatase-5b:TRACP-5b)は,術後に当然速やかに改善しましたが,骨形成マーカーの骨型アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase:ALP)は術後徐々に低下し,術後6~12カ月で定常状態に落ちつきました。したがって,術後1年ほどは骨形成が亢進した状態のため,この時期にうまく骨形成が行われるように治療を考える必要があります。
手術後に骨密度の上昇がみられるとの報告(文献1)がありますが,術後の骨粗鬆症の治療に関しては,エビデンスとなるような論文はないと思います。当院からの学会発表ですが,PHPT術後の患者さんを対象として,ビタミンDと乳酸カルシウムを内服した群と内服しない群を前向きに比較した試験を行ったところ,術後1年では女性の腰椎で,ビタミンDと乳酸カルシウム内服群のほうが有意に骨密度の改善を認めました。また,最近の当院の学会発表では,術後1年の大腿骨の変化率をビスホスホネート,選択的エストロゲン受容体モジュレーター(selective estrogen receptor modulator:SERM),ビタミンD,無治療の4群で比較したところ,ビタミンD内服群が最も改善していました。
ビタミンD不足は,わが国ではかなりの頻度で認められます。血清25(OH)Dが20ng/mL未満のビタミンD不足を伴った症例に対して,天然型ビタミンDを補充すると,PTHは低下し,ALPの有意な低下と尿中Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド(typeⅠcollagen cross-linked N-telopeptide:NTX)の低下傾向が認められることが報告されています。
残念ながら,わが国では血清25(OH)Dの測定や天然型ビタミンDの補充が保険診療上認められていないことが大きな支障になっています。そこで当院では,術後に活性型ビタミンD3 製剤を投与しています。ジェネリック製品もあり安価です。アルファカルシドール製剤であれば0.5μgくらいが安全と思われますが,腎機能に注意する必要があります。カルシウム製剤を併用してもよいのですが,適正投与量がわかりませんので,むしろ食事でカルシウム,マグネシウム,蛋白などを十分に摂取するように指導することが重要です。エルデカルシトール製剤に関しては使用経験がないので,効果は不明です。
術後1年の時点で骨密度が低い場合は,通常の骨粗鬆症の治療に応じて治療を検討すればよいと思います。術前から骨密度が非常に低く,骨折のリスクが高い症例の治療をどうすべきかは難しい問題です。PHPTの手術が適切に行われても,異時性2腺腺腫や過形成の再発の可能性がありますので,テリパラチドの使用の是非は不明のため使用していません。ほかの新しい薬としては,デノスマブの適応になるかもしれません。

【文献】


1) Rubin MR, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2008;93(9):3462-70.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top