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子宮内膜症に対するホルモン治療の選択

No.4774 (2015年10月24日発行) P.58

大須賀 穣 (東京大学大学院医学系研究科産婦人科学教授)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

子宮内膜症は月経困難症や不妊症の原因として知られています。最近,子宮内膜症の治療薬として,多くのホルモン剤が臨床現場で使用可能となりました。さらに,レボノルゲストレル徐放型IUS(intrauterine contraceptive system,ミレーナR)が,過多月経や月経困難症について保険適用が受けられるようになり,薬物療法の選択肢が広がりました。
レボノルゲストレル徐放型IUSの使い方について,どのような患者さんが対象となり,どのような副作用があるのでしょうか。東京大学・大須賀 穣先生のご教示をお願いします。
【質問者】
宮﨑博章:小倉記念病院婦人科副部長/感染管理部部長

【A】

子宮内膜症に対するホルモン療法として,これまではgonadotropin releasing hormone(GnRH)アナログ,プロゲスチン製剤,低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬が使用されてきました。いずれの薬剤も全身投与であるため,それに伴う副作用がみられます。特に排卵の抑制はすべての薬剤に共通して起こります。
これに対して,レボノルゲストレル放出子宮内避妊システム(ミレーナR)は子宮内に留置する装置(以前の避妊リングのようなもの)にプロゲスチンの一種であるレボノルゲストレルが付加されており,それが局所で放出されます。これによって,子宮内膜から子宮筋層にかけての局所でのレボノルゲストレルの濃度は高くなり,子宮内膜の増殖が抑制され,月経量が減少し,月経痛も軽減します。
一方,レボノルゲストレルは全身循環中では稀釈されるため,排卵周期に抑制がかかることはほとんどありません。また,本薬剤による全身作用としての副作用もほとんど認められません。さらに,一度子宮内に挿入すると,5年間にわたり安定して薬剤が放出されるため,患者さんにとっても利点の大きい薬です。
ただし,副作用がまったくないわけではなく,挿入時の痛み,月経時以外の出血,月経周期の変化,一時的な卵巣嚢胞,装置の脱出,装置の子宮壁への穿孔,骨盤内炎症性疾患が起きることがあります。特に最初の3~6カ月は不正出血が起こりやすく,また,脱出は5%程度に認められます。
子宮内膜症においては,症状の種類と程度,病気の進行度,患者さんの希望を総合的に判断して薬剤を選択することが重要です。レボノルゲストレル徐放型IUSが適している患者さんとしては,当面は妊娠を希望せず,かつ月経痛が主たる症状の患者さんということになります。挿入しやすさ,脱出の可能性などを考えると,経産婦が適していると言えます。進行度としては比較的初期で病巣の小さなものが望ましいでしょう。また,子宮腺筋症は合併していてもかまいませんが,脱出の危険性と薬剤の到達範囲を考えると,子宮内腔の形が保たれており,子宮筋層の肥厚が軽度であることが望ましいと言えます。
このような患者さんでは低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬やプロゲスチン製剤を使用することも可能ですが,全身性の副作用が気になる場合や,薬の効果が不十分な場合にはレボノルゲストレル徐放型IUSを使用してみるとよいでしょう。

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