【Q】
最近,大腸カプセル内視鏡(colon capsule endoscopy:CCE)が大腸検査の新しいmo-dalityとして登場してきました。これまでのCCEに関する報告は,大腸腫瘍・ポリープの診断精度に関するものが多く,炎症性腸疾患に対する意義についてはよく知られていません。炎症性腸疾患,特に潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の診断・治療におけるCCEの有用性,前処置の工夫,今後の展望などについて,慶應義塾大学・緒方晴彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
野崎良一:大腸肛門病センター高野病院消化器内科/ 副院長
【A】
ご指摘の通り,CCEはわが国において,「大腸内視鏡が施行困難,もしくは施行困難が想定される患者」に対して保険適用となりました。欧米を中心に,大腸腫瘍,ポリープに対する診断精度に関する検討が報告されていますが,炎症性腸疾患については不明な部分があり,私たちは2010年頃より,UC患者に対するCCEの有用性を検討してきました。
欧米では,CCE前処置には総下剤量として4L程度が必要と言われていました。CCEをわが国に導入した当初,大腸腫瘍,ポリープサーベイランスにおけるCCEの前処置に関しては,欧米人と比較して下剤量を減量できると誰もが予想していましたが,日本人の場合はS状結腸でカプセルが停滞し,欧米人とほぼ同等の下剤量が必要になることがわかってきました。そこで私たちは,UC患者の場合は,炎症の範囲,程度を確認するだけであれば下剤量が少なくすむのではないかと考え,CCEのUCに対する適応を思いつきました。
一般的なCCEの前処置法は通常,大腸内視鏡と同様の,腸管を洗浄するための下剤と,ブースターと呼ばれるカプセルを押し流すための下剤にわかれています。わが国においては,腸管洗浄にはポリエチレングリコール含有電解質溶液(polyethylene glycol electrolyte lavage solution:PEG-ELS),ブースターとしてはクエン酸マグネシウム(マグコロールRP)が主に用いられています。
UC患者に対する前処置は,腸管蠕動促進薬〔クエン酸モサプリド(ガスモチンR 錠)〕,PEG-ELS,クエン酸マグネシウムを用いて検討を行ってきました。下剤総量2.2Lの前処置法で全大腸の観察率が85%となっており(文献1),カプセルが未排泄の場合,ブースター(下剤)をオンデマンドで追加していく方法を行っています。症例によっては下剤量が少量で終了する場合もあり,25%のUC患者は総下剤量が1.6Lで検査が終了しました。
CCEのUCの炎症に対する診断能については,CCEから判定したMattsの内視鏡スコアと通常大腸内視鏡から判定したMattsの内視鏡スコアは高い相関を示し(文献2),この結果から,CCEによって大腸の炎症の程度を判定できることが示唆されました。
ただし,通常内視鏡でも指摘が困難な,慢性炎症に起因するがん(colitis associated cancer)のサーベイランスに対しては,CCEは用いるべきではなく,大腸粘膜の炎症の程度,範囲を把握する目的のみで使用すべきであると考えています。
1) Usui S, et al:Dig Endosc. 2014;26(5):665-72.
2) Hosoe N, et al:J Gastroenterol Hepatol. 2013;28(7):1174-9.