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子宮内膜症性卵巣嚢胞の治療法選択 【年齢,嚢胞の大きさ,挙児希望の有無を考慮する】

No.4804 (2016年05月21日発行) P.58

甲賀かをり (東京大学医学部産婦人科学講座准教授)

登録日: 2016-05-21

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

子宮内膜症性卵巣嚢胞(チョコレート嚢胞)を治療する場合,年齢,嚢胞の大きさ,挙児希望の有無を考慮して薬物療法・手術療法のいずれかを選択することになります。薬物療法を優先して効果がみられないときに手術療法を行うのか,なるべく手術療法を優先させるべきなのか,治療法選択の考え方について東京大学・甲賀かをり先生にご教示頂ければ幸いです。
【質問者】
松本光司:筑波大学医学医療系産科婦人科学准教授

【A】

年齢,嚢胞の大きさ,挙児希望の有無を考慮するのはいずれにしても大切です。
挙児希望がない40歳代以上の患者の場合で,特に嚢胞径4cm以上の嚢胞がある場合は,組織学的診断も兼ねて付属器摘出を考慮します。
現時点で挙児希望のある患者や不妊症を合併する患者で,男性因子・排卵因子などほかに不妊因子がない場合は,卵管因子などの腹腔内環境の改善の目的で手術療法を優先させます。高年齢や卵巣嚢胞摘出術の既往などにより卵巣機能の低下が心配される患者の場合は,卵巣嚢胞摘出術によってさらに卵巣機能を低下させる可能性が高く,その場合は手術は避け,高度生殖医療(体外受精/顕微授精)を優先させます。ただし,その場合も不妊治療中や妊娠した際の感染や破裂については十分な注意が必要です。
現時点で挙児希望のない若い患者の場合が最も議論のわかれるところです。手術療法は,術式にもよりますが,多かれ少なかれ卵巣機能を低下させるリスクがあり,術後の再発も稀ではありません。一方で,薬物療法や経過観察による保存的治療を選択した場合は,嚢胞の感染や破裂のリスクは残り,可能性は低いものの,がんの見逃しやがん化のリスクもあります。嚢胞の存在そのものによる卵巣機能低下のリスクもあると考えられています。これらの優劣については明らかなエビデンスはなく,患者にそれぞれの利点・欠点を説明し,相談の上,治療方針を決定することになります。
私たちの施設では,嚢胞径4cm未満は経過観察,6cm以上は手術療法,4~6cmは相談,と嚢胞の大きさによる暫定的な指針を立てていますが,すべての患者に上述の説明を行い,必ずしも全員にこの指針通りの診療を行っているわけではありません。また,手術療法を行った場合は術後に薬物療法による再発防止を勧めています。いずれにしても,その患者が挙児を希望する年齢になった際に,妊孕能ができるだけ高く保たれていることを意識した長期的管理をめざしています。

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