【Q】
経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test:OGTT)とGCT(glucose challenge test)があるが,GCTとはどのようなものか。(東京都 F)
【A】
GCTとは,妊娠中期に行う妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)のスクリーニング法である。
本稿ではGDMに代表される耐糖能異常合併妊娠について,その診断とスクリーニングを中心に説明する。
[1]妊娠と糖尿病について
耐糖能異常合併妊娠では,巨大児,それに伴う出産時障害(肩甲難産,産道損傷)や帝王切開率の上昇,胎児奇形や子宮内胎児死亡の発生,児の呼吸窮迫症候群といった,周産期合併症のリスクが上昇する。そして適切な血糖コントロールを行うことにより,そのリスクを軽減できる。できる限り早期に診断し,治療を開始することが重要で,妊娠32週までの良好な血糖コントロールが望ましいとされる(文献1)。
[2]わが国の妊婦健診における耐糖能異常の診断とスクリーニングの実際
75gOGTTを用いて,表1に示す基準に基づき,GDM,もしくは妊娠時に診断された明らかな糖尿病(overt diabetes in pregnancy)を診断する(文献2)。特にGDMについては,一般の糖尿病診断基準とは異なることに留意する必要がある。
耐糖能異常は通常主訴を伴うものではないため,妊婦健診の中で主に採血での血糖値検査を参考に,その存在を疑うこととなる。わが国の妊婦健診では,血糖値検査は初期(~12週)と中期(24~28週)の2段階で行われる。初期の耐糖能検査の目的は,主に「妊娠時に診断された明らかな糖尿病」のスクリーニングである。このときは,随時血糖値やHbA1c値がスクリーニングの指標として用いられることが多く,その後必要に応じて75gOGTTを行い,診断する。
GDMの多くは妊娠中期以降に発症することが多いため,初期のスクリーニング結果にかかわらず,中期の耐糖能スクリーニングも重要である。GDM診断のためには75gOGTTが必要であるが,全妊婦に75gOGTTをすることは困難である。そのため,75gOGTTはGDMが強く疑われる群(GDM高リスク群)に限って施行することが望ましいが,その抽出のためのスクリーニング検査の1つとして行われるのが,GCT,すなわち50g糖負荷試験である。75gOGTTとは異なり妊婦は事前の食事制限は必要なく,50gのブドウ糖を負荷して1時間後の血糖値を測定する。140mg/dL以上を陽性とし,陽性妊婦に対して75gOGTTを行い,表1の診断基準に沿ってGDMの診断を行う。GDMと診断された妊婦に関しては,速やかに治療を開始する。第一は食事療法であるが,血糖コントロールが不良な際はインスリン療法を行う。
[3]GCTの有用性
妊娠中期のスクリーニングとして,(1)随時血糖法(食後時間は考慮せず血糖値を測定,100mg/dL以上が陽性),(2)空腹時血糖法(夜間絶食後の血糖値を測定,85mg/dL以上が陽性),(3)50gGCT法,の3法いずれかが行われているのが現状である。
妊婦にかかる負担としては(1)が最も軽く,(2),(3)はそれに比べると重い。しかし50gGCT法が,GDMのスクリーニング法として,スクリーニング特性,そして費用対パフォーマンスの観点から最も優れているとされる(文献3)。したがって,わが国では「産婦人科診療ガイドライン:産科編2011」においても50gGCT法が,中期スクリーニングとして推奨されている。
[4]GDM患者の妊娠終了後のフォロー
GDM患者は分娩後6~12週に75gOGTTを行う。GDMの多くは妊娠中のインスリン抵抗性増加が原因であるため,妊娠終了とともに耐糖能は改善することが多い。しかし長期の追跡調査で,GDM患者は将来の糖尿病発症率が高いことが知られている(文献4)。そのため,妊娠終了後の検査で異常がなかった場合も,定期的,継続的な血糖値検査が望まれ,将来の糖尿病に留意することが重要である。
【文献】
1) Landon MB, et al:N Engl J Med. 2009; 361(14): 1339-48.
2) 日本産科婦人科学会, 他 監:産婦人科診療ガイドライン 産科編2011.日本産科婦人科学会事務局, 2011, p16-20.
3) 杉山 隆, 他:糖尿病と妊娠. 2006;6(1):7-12.
4) Bellamy L, et al:Lancet. 2009;373(9677):1773-9.