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バセドウ病治療中にFT4とFT3に乖離が生じる症例の病態

No.4730 (2014年12月20日発行) P.59

伊藤 充 (隈病院内科部長)

登録日: 2014-12-20

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

24歳女性,FT3 11,FT4 2.7,TSH 0.00,TRAb(+)。妊娠の予定はないとのことであったので,チアマゾール(MMI)投与。今回は,FT3もしくはFT4いずれかの検査しか保険で認められておらず,その後,FT3とTSHを測定したところ,FT3は3以上あるのにTSHが増加し,FT4を測定したところ,0.4以下であった。
T3はT4経由で産生されると思うが,FT4が測定限界以下でFT3が正常上限近くまであるというような乖離の理由には,どのようなものが考えられるか。
また,FT4を目安にすると,FT3がかなり高値になると考えられるが,問題はないのか。(鹿児島県 Y)


【A】

未治療バセドウ病を抗甲状腺薬で治療していると,大半の症例では,血中甲状腺ホルモン値は徐々に低下し,やがて血中T4,T3値はともに正常化する。しかし,一部に血中T4値が正常化しているにもかかわらず血中T3値が高値のままであったり,血中T3値を正常化させると血中T4値が低値となる状態で推移する症例(図1)がある。このようなバセドウ病をT3優位型バセドウ病と呼び,1984年にTakamatsuら(文献1)が初めて報告した。
本症の定義は,抗甲状腺薬をきちんと内服しているにもかかわらず,血中総T4値(ないしはFT4値)が正常上限以下であり,血中総T3値(ないしはFT3値)が高値の状態が持続するバセドウ病である。本症の頻度は,バセドウ病の1割強(12%)である。
通常のバセドウ病との違いは,甲状腺腫が通常のバセドウ病に比して大きく,また,血中TSHレセプター抗体値も高いことである。難治性であり,抗甲状腺薬での寛解率は不良である。
T4とT3が乖離しT3優位となる理由として,甲状腺組織内での脱ヨード酵素活性(D1, D2)が亢進していることから,甲状腺内でのT4からT3への変換が亢進していることが示唆されている(文献2)。
治療方法としては,抗甲状腺薬での寛解は困難である。T4併用療法を行った場合,血中T3/T4比は正常化するが寛解率はあまり改善しない。通常のバセドウ病は抗甲状腺薬治療により甲状腺腫大度が不変ないし減少するのに対し,本症ではむしろ増大傾向を示すことが多く,漫然と治療を継続すると巨大甲状腺腫となり,さらに治療が困難になる。
したがって,手術か131I療法が勧められる。暫定的に抗甲状腺薬治療を継続する場合は,FT4値とFT3値を同時測定し,FT4値を正常域内にし(下限を下回らない),FT3値を正常上限~軽度高値になるようにコントロールすることが,甲状腺機能亢進症状を抑え,病態悪化を防ぐ点からも望ましい。

【文献】


1) Takamatsu J, et al:Ann Intern Med. 1984;100 (3):372-5.
2) Ito M, et al:Eur J Endocrinol. 2011;164(1):95-100.

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