【Q】
骨盤位の胎児は長頭になっていることが多い。長頭になる機序について。
(京都府 O)
【A】
新生児の頭蓋変形のうち,遺伝的要素や頭蓋骨縫合早期癒合症などの病的原因に由来するものを除いたものは位置的頭蓋変形と総称され,大きく斜頭症,短頭症,長頭症に分類される。当院での発症頻度は斜頭症:54.2%,短頭症:42.3%(対称性:8.7%,非対称性:33.6%),長頭症:3.5%である。この誘因として以下が挙げられる。
(1)出生前誘因:骨盤位,横位,多胎など子宮内で持続的外圧を受ける場合。
(2)出生後誘因:向き癖。NICUでは頭部を横に向けて管理されることが多く,長頭症になりやすい。また,筋性斜頸,先天性股関節脱臼,肢体不自由なども頭位変換が制限され,変形の誘因となる(文献1,2)。
胎児は子宮内で様々な姿勢をとっているが,分娩時期が近づくにつれて頭位に落ち着いてくる。妊娠中期から7カ月までは約30%,8カ月で約15%,9カ月で6~7%程度に骨盤位がみられ,最終的に骨盤位のまま出産を迎えるのは3~5%ほどとされている。頭位に落ち着くまでは,外圧により種々の頭蓋変形をきたす可能性があるが,頭位となって以降は腸骨翼などに守られて外圧を受けにくくなる。したがって頭位になった時期にもよるが,頭位分娩では,それまでに頭蓋変形があったとしてもある程度矯正されるが,骨盤位や横位分娩では,出産直前まで外圧を受け続けるため,変形が矯正されずに分娩に至ると考えられる。
多くの文献で骨盤位が頭蓋変形のリスクとされているが,長頭症との関連については,明確にその原因を記載した文献は見当たらない。勝手な推測をお許し頂けるなら,長頭の胎児は,短頭や斜頭の胎児に比べて子宮内での動きが制限され,最終的に骨盤位から頭位になりにくいのかもしれない(同体積の正円球と楕円球を自由に回転させるために必要な空間は楕円球のほうが大きい)。すなわち,骨盤位で長頭症になりやすいのではなく,長頭症の胎児で骨盤位のまま分娩に至る率が高いと考えられるのではないだろうか。産科の先生のご意見をぜひおうかがいしたいところである。
従来,日本では,位置的頭蓋変形の大半は定頸後に改善するとされてきたが,中等度以上では睡眠時の向き癖が変わらず,変形が助長される場合もある。また,頭蓋変形は成長発達遅滞や機能障害の原因とはならないと考えられてきたが,斜頭症などを伴う症例では神経発達および運動発達に遅れがみられるとの報告が複数あり,頭蓋変形と発達遅滞との関連性が注目されている(文献3,4)。固定観念にとらわれず,積極的治療の可能性も含めて検討頂けると幸いである。
治療法としては,なるべく一定体位をとらないような工夫が重要だが,ドーナツ枕やタミータイム(寝ているときは仰向けに,起きているときは腹ばいにして発育を促す方法)は,苦労の割には効果が不確実であり,定頸後なるべく早期(至適開始時期は生後4~6カ月)にヘルメットによる矯正を開始するのが有効である(文献5)。
米国ではFDAにより認可された治療であり,多くの種類のヘルメットが使用可能であるが,ヘルメットによって治療対象月齢や効果がかなり異なり,シェアにも差があるので注意が必要である(表1)。日本では保険診療ではないため,やや高額となる。
1) Robert MK, et al:Nelson textbook of pediatrics. 19th ed. Elsevier/Saunders, 2011.
2) Leo AV, et al:Pediatrics. 2007;119(2):e408-18.
3) Matthew LS, et al:Pediatrics. 2010;125(3):e 537-42.
4) Collet B, et al:J Dev Behav Pediatr. 2005;26 (5):379-89.
5) Seruya M, et al:Plast Reconstr Surg. 2013;131 (1):55e-61e.