【Q】
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の服用時間は著者や出版年により「食前」「食後」「就寝前」などと異なりますが,最も効果的な服用時間はいつか,ご教示下さい。
またPPIはマグネシウム含有製剤との併用で吸収が阻害されるため,「しかるべき」間隔をあけて服用するよう記載されていますが,「しかるべき」間隔とはどのくらいでしょうか。 (埼玉県 M)
【A】
PPIの服用方法について,添付文書には1日1回経口投与とのみ記されています。これは,基本的には,いつ服用してもよいということですが,薬物動態や効果を考えると,多少考慮の余地があります。
まず,食後か食前かという点について述べます。図1aに,エソメプラゾールの投与初日および5日目の血中濃度に関する絶食下投与と食後投与での比較を示します(文献1)。この図に示すように,食後に投与すると,血中濃度が絶食下投与と比較して大きく低下することがわかります。
ランソプラゾールにおいても,食後に服用すると血中濃度が低くなることがわかります(図1b)(文献2)。ランソプラゾール30mgの食後投与の血中濃度は,15mgの絶食下投与の濃度とほぼ同等でした。
ラベプラゾールに関しては,比較的影響は少ない印象を受けますが(図1c)(文献3),食事の影響を受ける点では同様です。
食前に服用するメリットはもう1つあります。PPIは,活性化されたプロトンポンプを阻害するため,非活性状態のプロトンポンプを不活化することができません。PPI内服後の最高血中濃度は約2時間後です。したがって,食前に投与しておくと,食事によってプロトンポンプが活性化されるタイミングで高い血中濃度が得られるため,より効果的にプロトンポンプを不活化できると考えられます。
それでは,朝食前か,昼食前か,夕食前か,就寝前かという問題となります。日中の胃酸分泌抑制を中心に考えるのであれば,朝食前が好ましく,夜間胃酸分泌抑制を中心に考えるのであれば,夕食前や眠前投与が好ましいということになります。24時間を通じて胃散を抑制する場合には,CYP2C19のpoor metabolizer(代謝がゆるやかな群)でない限り,1日2回内服する必要があります。
現在,難治性の逆流性食道炎にはPPIの1日2回投与が認められつつあるように,強力な胃酸分泌抑制をPPIによって達成するには,複数回の投与が必要です(文献4,5)。
金属イオン含有製剤は,一部の薬物,たとえば,テトラサイクリンやキノロン系の抗菌薬,ビスホスホネート製剤などとキレートを形成し,血中濃度が低下してしまうことが知られています(文献6)。PPIも同様のことが知られており,水酸化アルミニウムゲルやマグネシウム含有製剤などとの併用で同様の相互作用が引き起こされます。
一般的に,この相互作用を回避する方法としては,内服のタイミングをずらすことが行われており,それに従うと,PPI内服のタイミングは,マグネシウム含有製剤を摂取する2時間以上前か,または4~6時間後に内服しなければならないということになります。
1) Junghard O, et al:Eur J Clin Pharmacol. 2002; 58(7):453-8.
2) 武田薬品工業株式会社:タケプロンRインタビューフォーム. 2013.
3) エーザイ株式会社:パリエットRインタビューフォーム. 2015.
4) Furuta T, et al:Clin Pharmacol Ther. 2001;70 (5):484-92.
5) Furuta T, et al:Pharmacogenomics. 2004;5(2): 181-202.
6) Arayne MS, et al:Drug Metabol Drug Interact. 2005;21(2):117-29.