【Q】
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の寛解維持療法の継続期間に関して教えて下さい。
たとえば,直腸炎あるいは左側大腸炎型の初発時で軽症から中等症相当の患者が,内服や注腸薬で速やかに寛解導入後,内視鏡で粘膜治癒が確認され,寛解期となり無症状の場合,内服継続の理解が困難な場合があると思われます。その状態が1年以上経過して初回発作型と考えられる場合,維持療法薬を減量・休薬し経過観察することは治療の選択肢の1つとして認められるものでしょうか。 (神奈川県 O)
【A】
現時点では,UCに対する根本的治療はなく,寛解導入後は炎症が再燃しないよう寛解状態を保つ寛解維持療法を行うことが重要となります。UCの基本薬は,5-アミノサリチル酸〔5-
aminosalicylic acid(5-ASA)〕製剤とステロイドです。重症度・罹患範囲をふまえて個々の症例の病態を考え,最適な治療法を選択すれば,多くの患者を炎症のない寛解状態にすることが可能です。
ご質問の症例で,軽症から中等症の直腸炎か左側大腸炎の場合,通常5-ASA製剤の内服と注腸薬や坐薬で寛解導入が可能です。5-ASA製剤は,大腸の炎症を特異的に抑え,軽症から中等症の寛解導入に用いられ,寛解後も維持療法に使用されます。
また,初回発作型で1年以上経過して粘膜治癒が得られている場合,寛解維持療法の減量・休薬が治療の選択肢になるかどうかに関してですが,原則として寛解維持療法を続けることとなります(文献1)。
一般的にUCは再燃と寛解を繰り返す慢性の疾患と定義され,日本で言う「初回発作型」の概念は海外では存在しません。気をつけなければいけないのは,感染性やほかの原因の急性胃腸炎をUCと診断し,また自然治癒した場合でも5-ASA製剤で有効であったと判断し,そのまま寛解維持のために使用してしまうことです。
真のUCであった場合,再燃防止に寛解維持療法が推奨されます。薬剤は,やはり原則として5-ASA製剤を使用しますが,5-ASA製剤で維持が困難である場合は,6-メルカプトプリン〔6-
mercaptopurine(6-MP)〕やアザチオプリン(azathioprine:AZA)などの免疫調節薬が用いられます(文献2)。単剤もしくは5-ASA製剤との併用で維持療法を行いますが,白血球減少など骨髄抑制の副作用に注意する必要があります。
さて,減量ないし休薬について,厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班の治療指針では,寛解後は約2/3量の減量での寛解維持が勧められていますが,最近,寛解導入量と寛解維持量が同じであるほうが寛解維持率が高いとの報告もあります(文献3)。さらに,大腸粘膜中の5-ASA濃度が高いほど治療効果も高いことが報告されており(文献4),高用量でも副作用の頻度は変わらず,長期使用でも腎障害以外には副作用の少ない薬であるため,筆者らも減量せずに同量を使うことが多いのが現状です。
休薬についてですが,軽症で寛解導入が簡単であった場合は,再燃率も低く再燃時の重症度も軽いことが多いことを経験していますので,休薬も可能と考えます。しかし,これには臨床研究などによるエビデンスはまったくありません。
無症状での内服継続の難しさについては,服薬遵守が悪いと再燃率が高くなるという結果が海外および日本の調査で証明されており(文献5),時間をかけて患者によく説明していますが,現実の臨床の場では難しさも感じています。
【文献】
1) Froslie KF, et al: Gastroenterology. 2007;133(2):412-22.
2) Hibi T, et al:J Gastroenterol. 2003;38(8):740-6.
3) Sandborn W, et al:Am J Gastroenterol. 2005;
100(9 Suppl):S312.
4) Naganuma M, et al:Inflamm Bowel Dis. 2001;7(3):221-5.
5) Kane S, et al:Am J Med. 2003;114(1):39-43.