【Q】
近年,子宮頸癌の低年齢化が指摘されています。それに伴い,妊娠中ないし子宮頸癌検診来院時の子宮頸部細胞診で異常を指摘されるケースも増加しています。妊娠中ないし挙児希望のある女性に子宮頸癌が発見された場合,従前では広汎子宮全摘術などを前提に治療するのがスタンダードでしたが,妊孕性の温存を目的とした広汎子宮頸部摘出術の成績が向上してきており,当院でもオプションの1つとして提示しています。しかし,進行期,組織型によっては速やかな根治術が必要なケースもあります。
当院では進行期ⅠA2期以内の扁平上皮癌に限り,非妊娠時に広汎子宮頸部摘出術を考慮していますが,最近の知見,治療成績をふまえ,新潟大学・榎本隆之先生のご意見を。
【質問者】
荻田和秀:りんくう総合医療センター周産期センター 産科医療センター長
【A】
わが国では20~30歳代の子宮頸癌罹患者は年々増加傾向にあり,また女性の初産年齢も上昇傾向にあるため,挙児希望のある女性あるいは妊娠が成立した女性に子宮頸癌が発見される機会がよくみられます。
将来妊娠を希望する早期子宮頸癌の患者さんに対して,病変のある子宮頸部だけを摘出して,妊娠に必要な子宮体部を温存する広汎子宮頸部摘出術は,脈管侵襲を伴うⅠA期から腫瘍径が2cm以下のⅠB1期で,挙児を強く希望する症例に適応され,再発率は従来の子宮全摘術とほぼ同様とされています。この術式により将来妊娠する可能性は残りますが,妊娠率は18%程度で,妊娠には生殖補助医療を必要とすることもめずらしくありません。また,妊娠が成立しても,胎児を支える子宮頸部が短縮しているので流・早産率も高くなります。
妊娠初期に早期子宮頸癌が発見された場合,標準的治療は妊娠継続をあきらめて広汎子宮全摘術を行うか,あるいは根治的照射術を施行します。どうしても患者さんが挙児を希望する場合,妊娠中絶術後に広汎子宮頸部摘出術を行うという方法もありますが,術後の妊娠率の低さを考慮すると,患者さんにとっては容易に受け入れがたい選択肢です。ⅠB1期までの症例に対して妊娠22週以前の診断でも妊娠を継続し,胎児の肺成熟を待って娩出した後に根治的治療を行った症例も報告されていますが,待機することによって癌が進行する可能性は否定できず,十分なインフォームドコンセントが必要と考えます。
子宮頸癌に対する治療を行いながら,妊娠を継続する目的でプラチナ製剤を基本とした術前化学療法を先行し,胎外生存が可能な時期になってから帝王切開術によって胎児を娩出し,その後,子宮頸癌に対する根治的治療を行ったという症例報告も散見されます。術前化学療法によって胎児に外表奇形は起こらず,発育に影響を与えなかったという報告もありますが,妊娠中の化学療法の胎児に対する影響については,器官形成期が終わって,器官や組織が成熟する時期に投与するので,催奇形性より胎児の将来の発癌リスクが上がる可能性があり,長期的な観察が必要であると考えます。
また,治療を行いながら妊娠を継続する目的でのfetus in uteroでの広汎子宮頸部摘出術に関しては,妊娠7~22週のⅠA2期からⅠB1期の症例に対して,これまで腹式9例,腟式8例の計17例の文献報告があり,12例で生児が得られています。
国内では私が2011年に国内初となる妊娠中の腹式広汎子宮頸部摘出術を報告して以来,私が計3例,琉球大学が1例の腹式広汎子宮頸部摘出術,札幌医科大学が1例の腟式広汎子宮頸部摘出術を報告し,いずれも生児を得ています。
しかし,この手術はあくまでchallengingな医療であること,また高度な術中の麻酔管理,術後の周産期管理を必要とすることから,総合周産期センターを持ち,かつ広汎子宮頸部摘出術に習熟した婦人科腫瘍専門医がいる施設で,十分なインフォームドコンセントのもとに行うべきであると考えます。